笑顔の裏側

作家: 織木真々
作家(かな): おきまま

笑顔の裏側

更新日: 2024/02/29 14:42
現代ドラマ

本編


「おはようございま~す。」

私の名前の書いてある部屋にはいると、、、誰もいない。それもそのはず、個人の控え室なのだからいるはずがない。それでも私は声に出す。誰かが言ってたなぁ。。。

『ショシンワスレルベカラズ』

誰もいない。1人は寂しい。
1人は悲しい。
1人は辛い。
お願いだから1人にしないで。
私を1人にしないで。
ねぇ!
聞いてるの!?
寂しいの!
悲しいの!
不安になるの!
お願いだから!
私の心が叫んでいる。この心の叫びは私の本心。他人からは見えないし、他人には見せない。私だけに聞こえる心の叫び。

「スタジオお願いしまーす。」

底抜けに明るいADの声が私を現実に引き戻す。収録が始まる。

「お仕事、お仕事。」

ゆっくりとスタジオへ移動しながらも心の中でカウントダウンを始める。
3、2、、1、、、。
ADの合図と共に扉を開けるとそこは別世界。華やかな照明、衣装、セットで覆われた夢の国。

カメラの前で、共演者の前で、視聴者の前で私は笑顔を振りまき、別世界、夢の国での居場所を得る。夢見たっていいじゃない。夢語ったっていいじゃない。夢の国なんだもの。そのために在る世界なんだもの。ダサい、ウザい、呼んでない、見たくない。。。良く聞く『4つのない。』

それがどうした!
批判するって事は『見てる』って事だろ?賛同しかない番組は直ぐに飽きられるし、コアなファンしか付いてこない。ダメダメな私をわざとらしく持ち上げてからスポンサーで着飾った子を映して見ろ。コレが広告塔だ!
広告塔にも踏み台が必要なんだよ!
分かったか、バカが!

押さえて押さえて、、、。今は夢の国。これが私の存在意義。必要としている現場がある。私でなければならない現場がある。この事は私にとってのモチベーションだし、必要であれば全力でスルーする。また、夢の国から一歩出れば普通の私に戻る。

「はぁ、、、。」

私はため息に気付かなかった。

「あー、、、、。。。」

極楽極楽とは良く言ったものだ。ここはこの世の天国か。勿論、風呂の話だ。心に負った傷を癒してくれる。ココロノキズ?私は何を考えているのか。ココロニキズヲオッテイルノ?何をバカなことを。そんなもの、あるわけがない。心に傷なんて!

『アナタハダレ?』

誰も居ない部屋。誰も居ない空間。私がいる。私は私だ。私以外は誰も居ない。それでも、私がいる。ヒトリハサミシイ?

「私が選んだんだ。私は寂しくなんか、ない!」

寂しくない寂しくない寂しくない寂しくない寂しくない寂しくない。。。私はベッドに飛び込み、意識を断ち切った。

「おはようございま~す。」

私の名前の書いてある部屋にはいると、、、誰もいない。いつもの部屋。いつもの場所。これからいつもの夢の時間が始まるのだ。ふと、鑑の前に置いてある封筒に目が止まる。ついに来た。最終通告書。今回のスタジオも今日で終わり。

『今日までありがとう。』

笑顔を忘れずに、最後のスタジオ収録を終えると私は静かに部屋を出る。封筒の置いてあった場所には私からのメッセージを置いておく。毎回、欠かさずにやっている事。これまでの『ありがとう』をたった一行。5文字しかないメッセージ。そうして私の役目は終わるのだ。

「終わっちゃったなぁ。。。」

サミシイ?

あー、いつもの心の声が聞こえる。

カナシイ?

「そりゃあ、ね。」

寂しいし、悲しいよ。私は夢の世界から『不要』と言われたのだ。分かってる。永遠に居続ける事が出来ないことくらい分かってる。今日くらい泣いたっていいじゃないかよ。泣かせてよ。

「おはようございま~す。」

誰もいない、私の名前の書いてある部屋に入る。今日からは昨日までとは違う現場。そう、今日からはまた別の夢の世界がはじまるのだ。笑顔を大切に。

『ショシンワスレルベカラズ』

~完~
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