piano
piano
更新日: 2024/02/29 14:33現代ドラマ
本編
私はピアノが嫌いだ。
ピアノの鍵盤を弾く指が舞う。鍵盤を走る指の動きや強弱で、感情で変わる旋律。私の心を見透かされているような気がしてならない。いつか先生が言っていた。
「何か不安な事とか嫌な事があったのかな?音に出てるよ。」
私の心の奥底をピアノを通して見られている。そんな思いがして私はピアノから距離を置いた。幼い転は鍵盤を叩けば音が鳴るピアノと言う楽器が大好きだった。 私がピアノを弾けば多くの人を笑顔にすることができ、誉められる事も多くあった。
それが、どうして、、、。
どうしてこんなに苦しいの?
「ピアノやってたんだって?」
来た来た。世間は狭いもので、誰が何を習い、誰が何が出来る。そんな個人情報など守られるハズもなく、無遠慮に心の境界線を越えてくる。流石に私も慣れた。
「ごめんね~、怪我してからピアノ触れないんだ。ドクターストップ。ってヤツ。」
と切り抜けていたのだ。
ピアノに限らず音楽そのものが好き。音楽に国境は無い。その通りだと私は思う。年齢、性別、国籍。音で会話出来れば言語など、どうにかなると思っている。ここ日本では、まして多感とされる10代後半では通用しない。他者が自分より劣っている事を確認し安心するのだ。劣っている自分を認めない。
私は当然の様に『陰湿な嫌がらせ』に遭う事となる。自分より優れているのにまたそれを認めない。その態度が気に喰わなかったのだろう。噂が噂を呼び、私は伝説のピアニストになる。笑ってしまうが、噂など本人の知らぬ所で誇張され、尾ひれが付き、泳いでいた魚が空を飛ぶ事だってある。
「もう、学校には居られないな。」
事態の収拾がつかない今、学校に留まる事は得策ではない。私にだってそのくらいは分かる。そうして私は学校から姿を消した。ここで普通なら繁華街をうろつき、一般的に良くない部類の人達と行動を共にするのだろうが、私は違った。私は音楽に飢えていた。
翌日から私の姿は学校から消えた。学校だけではない。街からも、生まれ育った家からも。。。
「すみません、どうにも、その。」
着の身着のままでやって来た私を受け止めてくれた存在。幼かった私を大人同様に扱い、正式な取材というものを初めて体験させてくれた人。今、頼れるのは他人だ。
「ねぇ、私と一緒に来なさいよ。」
数日が過ぎたある日、彼女は唐突に言った。言うが早いかテキパキと身支度を整えると車に飛び乗った。
「どこに行くんですか?」
私が助手席に座ると、待っていたかのように走り出す。この辺りの地理には詳しくない。
「どこだと思う~?」
悪戯な笑顔を浮かべたまま彼女は語ろうとはしなかった。私もまた、そんな彼女に聞くことも無かった。街を抜け、郊外を走り、人の影も少ないある場所で車は止まる。
「ここは?」
車を降り、建物を一回りし私はようやく口を開く。
「私のスタジオ。」
彼女は悪戯っぽい笑顔を崩さなかった。
中に入ると、様々な楽器がそれこそ雑多に置かれている。お世辞にも片付いているとは言えないその状況に唖然としながらも、中央に鎮座する存在感抜群の楽器に目が止まる。いや最早、楽器ではない。芸術品だ。
「あなた、ここで好きなだけ弾きなさい。1週間。1週間は私が誤魔化す。」
約束の1週間が過ぎた。彼女は約束通りに迎えに来ると、荷物をまとめて車に放り込む。
「さ、行くわよ。」
「え、行くって、どこに??」
「あなたの大っ嫌いなおうち。」
彼女はそう言うと私の言葉など聞いていないかの様に私の家へと車を走らせる。そこからは、まさに怒濤の展開。、、、だった。
あれから私は大人になり、ピアノを弾く事から離れてしまった。悔いはない。あの頃の楽譜や、気になった楽譜を買う事は趣味として今も続いている。仕事が落ち着き、色々なモノが落ち着いて、、、
「そうだ!」
私は真新しいキーボードを買った。
私の手が音を紡ぐ。
~完~
0ピアノの鍵盤を弾く指が舞う。鍵盤を走る指の動きや強弱で、感情で変わる旋律。私の心を見透かされているような気がしてならない。いつか先生が言っていた。
「何か不安な事とか嫌な事があったのかな?音に出てるよ。」
私の心の奥底をピアノを通して見られている。そんな思いがして私はピアノから距離を置いた。幼い転は鍵盤を叩けば音が鳴るピアノと言う楽器が大好きだった。 私がピアノを弾けば多くの人を笑顔にすることができ、誉められる事も多くあった。
それが、どうして、、、。
どうしてこんなに苦しいの?
「ピアノやってたんだって?」
来た来た。世間は狭いもので、誰が何を習い、誰が何が出来る。そんな個人情報など守られるハズもなく、無遠慮に心の境界線を越えてくる。流石に私も慣れた。
「ごめんね~、怪我してからピアノ触れないんだ。ドクターストップ。ってヤツ。」
と切り抜けていたのだ。
ピアノに限らず音楽そのものが好き。音楽に国境は無い。その通りだと私は思う。年齢、性別、国籍。音で会話出来れば言語など、どうにかなると思っている。ここ日本では、まして多感とされる10代後半では通用しない。他者が自分より劣っている事を確認し安心するのだ。劣っている自分を認めない。
私は当然の様に『陰湿な嫌がらせ』に遭う事となる。自分より優れているのにまたそれを認めない。その態度が気に喰わなかったのだろう。噂が噂を呼び、私は伝説のピアニストになる。笑ってしまうが、噂など本人の知らぬ所で誇張され、尾ひれが付き、泳いでいた魚が空を飛ぶ事だってある。
「もう、学校には居られないな。」
事態の収拾がつかない今、学校に留まる事は得策ではない。私にだってそのくらいは分かる。そうして私は学校から姿を消した。ここで普通なら繁華街をうろつき、一般的に良くない部類の人達と行動を共にするのだろうが、私は違った。私は音楽に飢えていた。
翌日から私の姿は学校から消えた。学校だけではない。街からも、生まれ育った家からも。。。
「すみません、どうにも、その。」
着の身着のままでやって来た私を受け止めてくれた存在。幼かった私を大人同様に扱い、正式な取材というものを初めて体験させてくれた人。今、頼れるのは他人だ。
「ねぇ、私と一緒に来なさいよ。」
数日が過ぎたある日、彼女は唐突に言った。言うが早いかテキパキと身支度を整えると車に飛び乗った。
「どこに行くんですか?」
私が助手席に座ると、待っていたかのように走り出す。この辺りの地理には詳しくない。
「どこだと思う~?」
悪戯な笑顔を浮かべたまま彼女は語ろうとはしなかった。私もまた、そんな彼女に聞くことも無かった。街を抜け、郊外を走り、人の影も少ないある場所で車は止まる。
「ここは?」
車を降り、建物を一回りし私はようやく口を開く。
「私のスタジオ。」
彼女は悪戯っぽい笑顔を崩さなかった。
中に入ると、様々な楽器がそれこそ雑多に置かれている。お世辞にも片付いているとは言えないその状況に唖然としながらも、中央に鎮座する存在感抜群の楽器に目が止まる。いや最早、楽器ではない。芸術品だ。
「あなた、ここで好きなだけ弾きなさい。1週間。1週間は私が誤魔化す。」
約束の1週間が過ぎた。彼女は約束通りに迎えに来ると、荷物をまとめて車に放り込む。
「さ、行くわよ。」
「え、行くって、どこに??」
「あなたの大っ嫌いなおうち。」
彼女はそう言うと私の言葉など聞いていないかの様に私の家へと車を走らせる。そこからは、まさに怒濤の展開。、、、だった。
あれから私は大人になり、ピアノを弾く事から離れてしまった。悔いはない。あの頃の楽譜や、気になった楽譜を買う事は趣味として今も続いている。仕事が落ち着き、色々なモノが落ち着いて、、、
「そうだ!」
私は真新しいキーボードを買った。
私の手が音を紡ぐ。
~完~