帰郷

作家: 織木真々
作家(かな): おきまま

帰郷

更新日: 2024/02/29 14:28
現代ドラマ

本編


都会とは暮らしやすく生活に不便はない。不便はない、と言いながらも不満はある。ジリジリと照りつける太陽の下でアスファルトがしっかりと照り返し熱を溜め込むというコンボを繰り出し、ビルに、家庭に、店舗に備え付けられたエアコンがその存在を誇示するかのように温風を放出する。更に言えば無尽蔵に走り続ける車の車列がまた熱を生み、熱を放出する。街頭のテレビは連日の気温を発表し、猛暑だ酷暑だと連呼する。立ち並ぶビルの隙間を縫って歩いているとここは本当に《都会》なのか?とさえ思えてくる。

終わらない仕事、飛び交う怒号、鳴り止まない電話、どこからともなく溢れてくる人。人。人。人の波に流されてしまいそうになるくらいの人。最近では都会って何なんだろうなぁと思うようにさえなっている。

「もう、10年か。。。」

両親の反対を押しきり決めた都会の大学に通い、就職して10年。

未だ両親は健在で健康そのもの。毎年、正月とお盆の季節には葉書が届き、近況を知らせてくる。一方でこちらはと言えば、特に何もせず近況すら伝えていない。それでも10年と言う歳月が過ぎたのは、年を負う毎に近況など報告しずらくなり何となく何も伝えられてはいない。

「今年の盆休み、長いんだよな。」

この年のお盆休みは数年に一度の長さであり、今年がチャンスとばかりに旅行業界は賑わいを見せている。が、特にすることもない。葉書を一枚購入し、家に帰って実家から届いていた葉書を引っ張り出す。

「えっと、郵便番号は、、、と。」

葉書を書くなんて何年ぶりだろうか。今じゃメールにメッセージアプリ等のSNSが普及し、全く書かなくなってしまった。葉書をポストに投函してから2週間後、新幹線に乗り、在来線を乗り継ぎ地元へと降り立つ。都会の駅とはあまりにもその大きさの違う駅舎をでると、こちらに向かい手を降る人影。

他にこの駅で降りた客はいない。あの人影はこちらに向かって手を振っているのだ。年老いた両親が満面の笑みを浮かべ目一杯に手を振っていた。こちらも近寄りながら、目の端から落ちそうになる涙を誤魔化すように大げさに手を振った。

~帰郷 終わり~
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