地獄道 御戒壇巡り

作家: 柴
作家(かな):

地獄道 御戒壇巡り

更新日: 2024/01/30 19:49
歴史、時代、伝奇

本編


【釜茹で地獄】
嗚呼、熱い。熱い。
ここは何処だ。暗くて何も見えない。身動きも取れない。
高熱の濁流が私の柔肌をくまなく覆い灼く。私は喘ぎながらごぼごぼと泡を吐く。私が一体何をしたのか。どんな業を抱え、どんな罪を背負っているというのか。
嗚呼、熱い。熱い。

【針山地獄】
熱流は渦を巻き、脈々と肌を灼き続けている。
やがて私は、躰の内に硬い刃が仕込まれていく感覚を覚える。刃は枝葉のように伸び進み、私の中から肉を貫き、皮を突き破らんとする。
痛い。痛い。激流に口を塞がれ悲鳴を上げることも叶わない。熱と痛みに藻掻く手足は、その実あまりに非力であった。

【飢餓地獄】
私は常に苛まれている。私は常に不足している。
この意識が芽生えた時から今に至るまで一時たりとも足るを知らず、熱流の中に溺れつつも乾きを感じ、激痛の上に苦しみつつも飢えを忘れ得ぬ。
只々繭のように身を縮めて苦難に耐えている。

【血の池地獄と蜘蛛の糸】
私を絶えず灼いていた激流が突如何処かへと流れ去り、永劫続くかと思われた責め苦が呆気なく終幕する。
然れど息を整える間もなく、私を包む暗闇がこの躰を今にも押し潰さんと軋み始める。容赦のない緊縮に頭蓋が割れそうに痛む。
この身の終わりを覚悟し、薄く目を開けると、何やら一筋の光が私へと延びている。漠然と、その糸のように細い光を辿っていくことこそ、この痛みから逃れる手立てと知る。手を伸ばし、脚で蹴り上げ、真っ赤な血の滴る肉壁を掻き分けていく。

『おんぎゃあ』

努々、この先こそが真なる地獄であると勘づく事勿れ。
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