星に願いを
星に願いを
更新日: 2023/12/22 23:16恋愛
本編
この願いが星に届いてしまったら
私には止まない雨が降る
期待はしちゃいけない。
そんなことは百も承知だ。私だってもういい大人だし……そんな今更、誰かに恋するなんて思ってもみなかった。
そう、恋。
いい大人だからこそ、誤魔化しきれないぐらい、これが恋だとわかっている。
「はぁ……」
なんでこんなことになったかなぁ、なんて星空を眺めながら考える。今夜は十五夜だとか。このベランダからだと月は見えない。ただ、いつもよりも明るい夜空に、星が霞んで見えた。
「そこから月、見えるの?」
呑気な声が部屋の中から聞こえてきた。
「見えるわけないじゃん」
部屋に戻ると、みたらし団子を頬張っている旦那がいた。
「おいしいよ。食べる?」
「食べる!」
私はこうやってお団子を2人で食べる時間も好きだ。きっと、おじいちゃん、おばあちゃんになっても食べている気がする。ただ、それが目の前にいる旦那なのか……今の私には霞の中だ。
少しの罪悪感を持ちながら団子を頬張った。
きっかけは何だったのか、よく覚えていない。出会ったのは1年以上前だし、まぁ、懇切丁に仕事を教えてくれる彼に好感は持った。だけど、同棲している彼女はいたし、後に結婚もするしで、歳の近いただの同僚でしかなかったはずだ。だいたい、私も既婚者だ。まぁ、同じくアニメや漫画が好きなオタクという共通点があってよく話はしていた気がする。
いつからか、彼と話をするのが楽しくなった。お互いに面白かった作品を薦めあったりして、共通の何かが増えていくのが嬉しかったんだと思う。
彼も楽しそうに話すから、私はもっと一緒に話していたいと思うようになった。私の中ではただの同僚ではなくなっていたんだ。
彼はどう思っているかはわからない。ただ、話しかけてくれたりするから、私は期待してしまう。同じ思いを持ってくれているんじゃないかと。
そんなわけないのに。
たとえ、そうであっても口には出せない。出しちゃいけない。
彼にも私にも、傷つけてはいけない人がいる。
「はぁ……」
今夜も星空を眺める。空には十六夜の月。このベランダからは見えないけれど、一生懸命に夜空を照らしている。どうやら十五夜よりも50分遅く出てくるらしい。ほんの少しのタイミングで彼の十五夜にはなれなかったのかもしれない……なんてセンチメンタルな気持ちになるのも、恋をしている証拠に感じる。
「だから、どうにもならないし、どうにかしちゃいけないんだよ」
自分に言い聞かせるように呟いた。
彼の笑った顔は眩しくて、それは私には十五夜どころか太陽で。その下で歩きたかったけれど、それは私には許されない。月夜で霞んだあの星に願うのが精一杯。だけど……
もしも、この願いがあの星に届いてしまったら
私には止まない雨が降る
傘もささずにずぶ濡れになって
涙を隠すように道を歩く
やがて道は途切れて、これ以上進めず
私は立ち止まって空を見上げた
灰色の雲が私の星を隠す
もう見えなくなったあの星に
「来世で逢いましょう」
と呟いて 私はそっと目を閉じた
幸せなのに哀しくて悲しくて
星に届かなくて叶わなくて
ただ、貴方の幸せを願っているだけでそれだけで……
0私には止まない雨が降る
期待はしちゃいけない。
そんなことは百も承知だ。私だってもういい大人だし……そんな今更、誰かに恋するなんて思ってもみなかった。
そう、恋。
いい大人だからこそ、誤魔化しきれないぐらい、これが恋だとわかっている。
「はぁ……」
なんでこんなことになったかなぁ、なんて星空を眺めながら考える。今夜は十五夜だとか。このベランダからだと月は見えない。ただ、いつもよりも明るい夜空に、星が霞んで見えた。
「そこから月、見えるの?」
呑気な声が部屋の中から聞こえてきた。
「見えるわけないじゃん」
部屋に戻ると、みたらし団子を頬張っている旦那がいた。
「おいしいよ。食べる?」
「食べる!」
私はこうやってお団子を2人で食べる時間も好きだ。きっと、おじいちゃん、おばあちゃんになっても食べている気がする。ただ、それが目の前にいる旦那なのか……今の私には霞の中だ。
少しの罪悪感を持ちながら団子を頬張った。
きっかけは何だったのか、よく覚えていない。出会ったのは1年以上前だし、まぁ、懇切丁に仕事を教えてくれる彼に好感は持った。だけど、同棲している彼女はいたし、後に結婚もするしで、歳の近いただの同僚でしかなかったはずだ。だいたい、私も既婚者だ。まぁ、同じくアニメや漫画が好きなオタクという共通点があってよく話はしていた気がする。
いつからか、彼と話をするのが楽しくなった。お互いに面白かった作品を薦めあったりして、共通の何かが増えていくのが嬉しかったんだと思う。
彼も楽しそうに話すから、私はもっと一緒に話していたいと思うようになった。私の中ではただの同僚ではなくなっていたんだ。
彼はどう思っているかはわからない。ただ、話しかけてくれたりするから、私は期待してしまう。同じ思いを持ってくれているんじゃないかと。
そんなわけないのに。
たとえ、そうであっても口には出せない。出しちゃいけない。
彼にも私にも、傷つけてはいけない人がいる。
「はぁ……」
今夜も星空を眺める。空には十六夜の月。このベランダからは見えないけれど、一生懸命に夜空を照らしている。どうやら十五夜よりも50分遅く出てくるらしい。ほんの少しのタイミングで彼の十五夜にはなれなかったのかもしれない……なんてセンチメンタルな気持ちになるのも、恋をしている証拠に感じる。
「だから、どうにもならないし、どうにかしちゃいけないんだよ」
自分に言い聞かせるように呟いた。
彼の笑った顔は眩しくて、それは私には十五夜どころか太陽で。その下で歩きたかったけれど、それは私には許されない。月夜で霞んだあの星に願うのが精一杯。だけど……
もしも、この願いがあの星に届いてしまったら
私には止まない雨が降る
傘もささずにずぶ濡れになって
涙を隠すように道を歩く
やがて道は途切れて、これ以上進めず
私は立ち止まって空を見上げた
灰色の雲が私の星を隠す
もう見えなくなったあの星に
「来世で逢いましょう」
と呟いて 私はそっと目を閉じた
幸せなのに哀しくて悲しくて
星に届かなくて叶わなくて
ただ、貴方の幸せを願っているだけでそれだけで……