来てみたい

作家: おのえ桜子
作家(かな):

来てみたい

更新日: 2023/11/08 12:26
詩、童話

本編


耳をすませば 鸚鵡の雄叫び
背中を伸ばせば 大猩猩《ゴリラ》の唸り
腕を振れば 蔦の束

思い出そうとすればするほど 僕が遠退く
進めば進むほど 森が遠退く
近道は遠回りのように思うからやめておく
回り道は獣道だからもう行かない
先回りは一足遅い
僕はいつも一足遅い

啄木鳥は木をつつく
尺取虫は枝を測る
艶やかな茸《きのこ》は毒を作る

悲しくなればなるほど 音が近づく
嬉しくなればなるほど 影が近づく
僕の頭の中は蜘蛛の巣だらけ
払おうとすると 指が小枝
走ろうとすると 足が棒
ここを通るときは いつもこう
避けることのできない 未知の道

暗黒 幻聴 迷走 清澄 幻惑 閃光 

井戸が深くて 僕が上
砂が辛《から》くて 僕が横

掌ほどの花 香りは優雅
親指ほどの蝶 羽ばたきは繊細
頭ほどの蝙蝠 動きは機敏

朝の泉は闇を破る
昼の風は思い出を語る
夜の泥は暑さを誘《いざな》う

耳をすませば 鸚鵡の寝息
背中を伸ばせば 大猩猩の囁き
腕を振れば 蔦の一条

君もきっと来てみたい
僕と一緒に来てみたい
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