鉄恨(てっこん)のイゼルヴロク

作家: 帆多 丁
作家(かな): ほた てい

イゼルヴロク

更新日: 2023/10/26 11:54
異世界ファンタジー

本編


 お前はいつでも輝いていて、ガキのころから二言目には「トビー、冒険だ!」っつって突き進んでいく。おれはそんなお前の隣にいるのが好きだった。
 お前ほどイカした悪戯も思いつかなかったけど、身体だけは人並み外れて頑丈だったから、お前の思いつきには率先して突っ込んでいった。
 そうすればお前は誰にも見せないような悪ガキの顔をして喜ぶし、その時だけは、おれはお前と対等でいられる気がした。

 女神の泉を見つけたのはおれが先だったんだぜ。女神に呼ばれていたのはお前だったけどな。
 世界を救う勇者になれって言われて「トビー、最高の冒険だな!」って振り返ったお前の目が不安に揺れていたから、おれは一緒に行くと言ったんだ。
 人並み外れた頑丈さで、おれはお前の剣《つるぎ》が使命を果たすその時まで、お前の盾になるつもりだったんだよ。

 指の何本かは失った。耳の片方はなくなった。左のつま先は潰れて鉄板で補ってた。折れたことのない骨はないし、まともな歯は半分も残っていなかったし、左目はずっと白く濁っていた。
 それがなんだ。
 それがなんだってんだ。
 なんでおれを聖都に置いていった? おれのためになるとでも思ったのか。
 おれを置いていく代わりに連れて行った、あの女は誰だ。
 いやわかっている。誰なのか、何なのかはわかっている。あの忌々しい女。女神の依代、加護の代行者。
 依代と女神の泉で交わったな? お前の剣の輝き、お前が身に纏う光、それがあの女の今の姿か。
 その力を得られるから、おれは居なくて大丈夫だと、そういうつもりだったんだろう。何が「今まですまなかった」だ。何が「もう傷つかなくていい」だ。おれの気持ちはどうしてくれる。あそこでおれを放り出して、おれにどうなってほしかったんだ。
 なくした指は、耳は、歯は、目は、いったいなんだったんだ。
 
 だからおれは、お前の正面に立ちはだかることにしたんだ。
 隣にも、前にもいられないのならいっそ。

「おれは魔王軍四天王が最後のひとり、鉄恨《てっこん》のイゼルヴロク。お前の『冒険』はここまでだ」

0:転換。勇者の弟子乱入。

「なんだお前は!? 

 邪魔をするな小僧! どこから出てきた!? 弟子? 弟子だと!? 勇者貴様、貴様と言う奴は!! 
 よりによってこんな小僧を隣に!!! 
 くそ! 鬱陶しい小僧だ! 待て勇者、ここは通さん! ぐっ……、どけ小僧!! お前じゃない、お前じゃない、

 お前じゃないんだよ!!!」


0:転換。戦いの後。瀕死のイゼルヴログ


 小僧……おれを倒したのはお前じゃない。おれは魔王様と共に、勇者に破れたのだ。魔王様の命とともに、おれの命も消えるのだ。
 おれを、殺したのは、お前じゃない、お前じゃない、お前じゃないんだよ……。
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