生徒C
生徒C
更新日: 2023/08/05 11:42現代ドラマ
本編
私はクラスの中で、「生徒C」である。
Aなんておこがましい、Bにすら多分なれない。
この高校に、小学生時代からの友達がいるにはいるが、1年の時はクラスが違い、2年からは彼女は理系クラス、私は文系クラスに進んだので、同じクラスに友達はいない。
クラスどころか、顔見知りの同級生や先輩後輩ですら、用もなく私に声をかけてくることはない。
私から話しかけても、みんな反応は薄い。
クラスでいじめを受けている三原さんの方が、みんなに認知されているのではと思うくらいだ。
三原さんは三原さんで、私とは性格が合わなそうなので仲良くもなれなそうだけど。
話しかけたら睨まれたことまであった。
クラスカーストという言葉は好きではないが、このクラスでの立ち位置は、私は三原さんより下だろう。
別にこの学校生活に文句があるわけでもない。
ただ、誰にも気付かれない存在、それが私だ。
「ごめん、俺今日渡り廊下の掃除当番なんだけど、部活が試合前で遅れたくなくてさ。悪いんだけど、代わってくれない?えーと、名前、何さんだっけ。」
「…スズカです。」
もうすぐ夏休みになるというのに、隣の席の男子ですら、私の名前を知らない始末。
「サンキュースズカさん!」
「藤野、お前、マジで知らねーの?」
「何が?ああ、スズカさん?だって喋ったこともねーし。」
お昼は、晴れている日はグランドに面している石段で食べ、雨の日は学食でお弁当を広げる。
サッカーをしている生徒などもいる、休み時間のグランドを見ながら、暖かい日差しを浴びてお弁当を食べるのは悪くない。
日焼けして熱くなっている石段にハンカチを敷き、その上に座りながらお弁当を食べ、学校の側にある自動販売機で買ったばかりの冷えたペットボトルのお茶を体に注ぎ込む気持ち良さは格別だ。
そもそも、海外ではランチは一人で食べようが誰かと食べようが誰も何も言うことはない。
生活態度も評価される小学校ならまだしも、テストで点をとればいいだけの高校でコミュニケーション能力が成績の評価項目に加わることはまずないはずだ。
私はウインナーを食べる。
美味しい。
誰にも気を遣うことなく一人で食べるランチタイムは最高の時間だ。
パシャ!
下を見ると、小学生時代からの友達の有紗がカメラを手にしていた。
彼女は写真部で、学生にしては高額な一眼レフを小遣いやお年玉を貯めて購入した。
「おお、すごくきれいに撮れた!見て!」
駆け寄ってカメラの画面を見せてくる彼女。
そこには、グランド前の石段に座り、ウインナーを頬張って笑顔でいる私が写っていた。
「いいわ、ザ青春の夏!って感じ!駅のポスターとかにありそうじゃない?これ、今年の夕日新聞のフォトコンテストに応募していい?
大賞は賞金50万だよ!そしたら部費の足しにしてみんなで撮影旅行行くの。
あ、すずちゃんにもモデル代払うね!」
「こんな写真じゃ選外に決まってるでしょ。有ちゃんねえ、大賞狙うんだったら私みたいに存在感0の人間じゃなくて、もっときれいな子にお願いしなきゃ。」
「もう、すずちゃんはどうしてそんなに自分に自信がないの?すずちゃんはすっごく美人だし、雰囲気あるし、人目を引くオーラ?みたいなのがあるんだよね!メイクしたら、そこらの芸能人くらいキレイになるんじゃない?」
「存在感なさすぎて誰も私の存在に気づかないレベルですが。お世辞にしても言いすぎ。」
「何でよー!」
冗談にしてもあり得ないお世辞をいう有紗に、私は笑った。
でも、本当にそれぐらい人目を引く人なら、楽しい毎日を過ごせるんだろうなあ。
卒業したら、私のことを覚えている同級生なんて、きっと有紗くらいだろう。
「本田さんて、この学校に入学してからずっと、名前聞かれたら絶対下の名前答えるんだよね。マジで知らない藤野はアホとして。同じ中学から来た人に聞いたら、中学では普通に答えてたらしいけど。」
「本田さん、このクラスのカースト最上位だよね。三原いじめてる内藤達ですら、本田さんには手を出せないって言ってたし。」
「いや南高のトップでしょ!後輩ですらオーラ強すぎて緊張して挨拶もできなかったとか言ってたし!」
「あそこまで目立つ子って、声かけづらいわ…。名前の件といい、ちょっと不思議ちゃんだし。」
「分かる。話しかけられても緊張するし。」
本田涼香。それが私のフルネーム。
名前を聞かれたら私は必ずファーストネームを答える。
「名字を教えて」ではなく、「名前を教えて」と聞かれるのだから、当然名前を答えるまでだ。
まあ、少なくともこの学校内では有紗くらいしか私の名前を呼ぶ人もいないので、たまには名前で呼ばれてみたいという願望もあってのことでもあるのだが。
この時は誰も想像すらしてなかった。
有紗が全国紙である夕日新聞のコンテストに送った写真が大賞をとり、ネットで瞬く間に広がり、「奇跡の一枚」と評され、テレビでもその写真が紹介され、僅か数年後、生徒Cだった私が、生徒Cどころか国営放送で毎朝放送されるドラマの主演を張る女優になり、クラスどころか日本人の大半、いや下手したら海外の人までが私の名前を知っているようになるなんて。
0Aなんておこがましい、Bにすら多分なれない。
この高校に、小学生時代からの友達がいるにはいるが、1年の時はクラスが違い、2年からは彼女は理系クラス、私は文系クラスに進んだので、同じクラスに友達はいない。
クラスどころか、顔見知りの同級生や先輩後輩ですら、用もなく私に声をかけてくることはない。
私から話しかけても、みんな反応は薄い。
クラスでいじめを受けている三原さんの方が、みんなに認知されているのではと思うくらいだ。
三原さんは三原さんで、私とは性格が合わなそうなので仲良くもなれなそうだけど。
話しかけたら睨まれたことまであった。
クラスカーストという言葉は好きではないが、このクラスでの立ち位置は、私は三原さんより下だろう。
別にこの学校生活に文句があるわけでもない。
ただ、誰にも気付かれない存在、それが私だ。
「ごめん、俺今日渡り廊下の掃除当番なんだけど、部活が試合前で遅れたくなくてさ。悪いんだけど、代わってくれない?えーと、名前、何さんだっけ。」
「…スズカです。」
もうすぐ夏休みになるというのに、隣の席の男子ですら、私の名前を知らない始末。
「サンキュースズカさん!」
「藤野、お前、マジで知らねーの?」
「何が?ああ、スズカさん?だって喋ったこともねーし。」
お昼は、晴れている日はグランドに面している石段で食べ、雨の日は学食でお弁当を広げる。
サッカーをしている生徒などもいる、休み時間のグランドを見ながら、暖かい日差しを浴びてお弁当を食べるのは悪くない。
日焼けして熱くなっている石段にハンカチを敷き、その上に座りながらお弁当を食べ、学校の側にある自動販売機で買ったばかりの冷えたペットボトルのお茶を体に注ぎ込む気持ち良さは格別だ。
そもそも、海外ではランチは一人で食べようが誰かと食べようが誰も何も言うことはない。
生活態度も評価される小学校ならまだしも、テストで点をとればいいだけの高校でコミュニケーション能力が成績の評価項目に加わることはまずないはずだ。
私はウインナーを食べる。
美味しい。
誰にも気を遣うことなく一人で食べるランチタイムは最高の時間だ。
パシャ!
下を見ると、小学生時代からの友達の有紗がカメラを手にしていた。
彼女は写真部で、学生にしては高額な一眼レフを小遣いやお年玉を貯めて購入した。
「おお、すごくきれいに撮れた!見て!」
駆け寄ってカメラの画面を見せてくる彼女。
そこには、グランド前の石段に座り、ウインナーを頬張って笑顔でいる私が写っていた。
「いいわ、ザ青春の夏!って感じ!駅のポスターとかにありそうじゃない?これ、今年の夕日新聞のフォトコンテストに応募していい?
大賞は賞金50万だよ!そしたら部費の足しにしてみんなで撮影旅行行くの。
あ、すずちゃんにもモデル代払うね!」
「こんな写真じゃ選外に決まってるでしょ。有ちゃんねえ、大賞狙うんだったら私みたいに存在感0の人間じゃなくて、もっときれいな子にお願いしなきゃ。」
「もう、すずちゃんはどうしてそんなに自分に自信がないの?すずちゃんはすっごく美人だし、雰囲気あるし、人目を引くオーラ?みたいなのがあるんだよね!メイクしたら、そこらの芸能人くらいキレイになるんじゃない?」
「存在感なさすぎて誰も私の存在に気づかないレベルですが。お世辞にしても言いすぎ。」
「何でよー!」
冗談にしてもあり得ないお世辞をいう有紗に、私は笑った。
でも、本当にそれぐらい人目を引く人なら、楽しい毎日を過ごせるんだろうなあ。
卒業したら、私のことを覚えている同級生なんて、きっと有紗くらいだろう。
「本田さんて、この学校に入学してからずっと、名前聞かれたら絶対下の名前答えるんだよね。マジで知らない藤野はアホとして。同じ中学から来た人に聞いたら、中学では普通に答えてたらしいけど。」
「本田さん、このクラスのカースト最上位だよね。三原いじめてる内藤達ですら、本田さんには手を出せないって言ってたし。」
「いや南高のトップでしょ!後輩ですらオーラ強すぎて緊張して挨拶もできなかったとか言ってたし!」
「あそこまで目立つ子って、声かけづらいわ…。名前の件といい、ちょっと不思議ちゃんだし。」
「分かる。話しかけられても緊張するし。」
本田涼香。それが私のフルネーム。
名前を聞かれたら私は必ずファーストネームを答える。
「名字を教えて」ではなく、「名前を教えて」と聞かれるのだから、当然名前を答えるまでだ。
まあ、少なくともこの学校内では有紗くらいしか私の名前を呼ぶ人もいないので、たまには名前で呼ばれてみたいという願望もあってのことでもあるのだが。
この時は誰も想像すらしてなかった。
有紗が全国紙である夕日新聞のコンテストに送った写真が大賞をとり、ネットで瞬く間に広がり、「奇跡の一枚」と評され、テレビでもその写真が紹介され、僅か数年後、生徒Cだった私が、生徒Cどころか国営放送で毎朝放送されるドラマの主演を張る女優になり、クラスどころか日本人の大半、いや下手したら海外の人までが私の名前を知っているようになるなんて。