「あー」という言葉

作家: 浜風 帆
作家(かな): はまかぜ ほ

「あー」という言葉

更新日: 2023/06/02 21:46
詩、童話

本編


「あー」という言葉が漏れる。
僕の体から。
疲れてる。

「あー」という心の底から湧き出る言葉をつかみたくて。
でもつかめなくて「あー」という言葉が下に落ちた。

忙しすぎる。
疲れてる。
だから「あー」という言葉がモヤモヤと漂う。
ため息が出る。

嫌になって「あー!」と振り払い、
やけになって「あー」と駆けた。

それでもモヤモヤは晴れず、
「あー」と悲嘆に暮れる。

「あー」と何もわかってないのに納得してみる。



君の「あー」は何?

まさか官能的な「あー」じゃないだろうね。
いや、それもいい。

声を荒げ「あー!」と怒っちゃないだろうね。
それはやめときな、良いことひとつもないさ。

腰を痛めて「あー」と悲痛な声を上げる前に、
「あー」と気持ちよく、ちょっと体を動かすか。



いろんな「あー」を考えて試しても、
求める「あー」がつかめない。

「あー」はまた、ため息と一緒に落ちた。
落ちては消えた。

そして、また「あー」という言葉が落ちてくる。
まるで白い雪の様に次から次に落ちてくる「あー」という言葉。

世界を染め、地面を、世の中を、全てを覆いつくす。

「あー!!」と嫌になり、
積もった「あー」を闇雲に蹴り上げ、
バランスを崩して倒れ込んだ。

みっともないな、と涙と一緒に「あー」が出た。

……それでも。

しんしんと降り積もる「あー」を見つめ、
僕の心の底から、無心の深い「あー」が一言漏れた。

静かにとても静かに、絶え間なく降る「あー」を見て。
僕はその光景を愛おしく美しいと思った。

「あー」

心の底、深いところから漏れでた一言の言葉。
そこに込めららた感嘆。



その一言をつかみたくて、伝えたくて
ずっと、迷って、悩んで、探して、走って、戦って、着飾って、落胆して、もがいて、嫌になって

それでもつかめず、それでも諦めきれず、吐き続けた「あー」が
倒れ込んだ僕の体に降り積もる。

ここまでやってきたんだ。
つかめぬ「あー」を求め、不恰好にもここまで。

綺麗な言葉やかっこいいセリフではなく。
僕はただ、体の底から湧き出る「あー」という一言が欲しくて。

それが得られるまで、書き続け、読み続け、伝え続け、挑み続けてきたんじゃないか。
だからまた、この儚い「あー」が降り続ける。

「あー」という一言を伝えるために、
「あー」いう言葉が、
諦めずに、しんしんと静かに降り積もる。

諦めず、
諦めず、
ただ、しんしんと、、、


Fin
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