前を向け！

前はどこだ？

俺は前を探してる。

ずっと前を探してる。



「前を向け！」と言うけれど

俺には前がわからない。

目を上げればそこは闇。

右も左も後ろにも、

どこにも前は見当たらぬ。

見上げた空には光があるが、

そこへの道は見つからぬ。



前を向けとは言うけれど

俺には前が見当たらぬ。

途方に暮れたその場所で

足が宙浮くこの場所で、

全てを無くしたあの場所で、

俺には前が見当たらぬ。



ふー、と溜息ひとつ出て、

あきらめ下を向いたとき、

俺はハタと気がついた。

俺はここにはいないのだ。

本当の俺はいないのだ。



あー、そうか。

だから俺には前がない。

なるほど簡単な話じゃないか。

俺がなければ、前もない。

俺がいるから、前もある。

俺がいなけりゃ、前もない。



本当の俺はどこにいる？

無くした俺はどこにいる？

見捨てた俺はどこにいる？

本当の俺が見つかれば

そこにはきっと前がある。



本当の俺を思い出せ、

本当の俺を探し出せ、

本当の俺を作り出せ、

俺よ、

そんな俺を見捨てるな、

そんな俺を支えてやれよ、

前を向きたきゃそこからだ！

俺の前はそこにある。




Fin