まよなかのハーラ

作家: 蒸気宇宙船
作家(かな): じょうきうちゅうせん

まよなかのハーラ

更新日: 2023/06/02 21:46
詩、童話

本編


「...ん...う~ん...」
ハーラはひかりぼしがじめんにかくれるちょっとまえに、目をさます。
うすあかりの中にハーラも見なれているわぼしがぽっかりとうかび、ちらほらとほしがまたたきはじめている。
くびかけカレンダーをみると、今は242:42。
いつものじかんにハーラはおきたわけである。
(ヒーラったら、あたしのマネでもして、ていしゃじょうのベンチでねてたのかしら...?)
ハーラはひるのじかんに「あおい花学校」にとうこうするまえにはいつも、ていしゃじょうのベンチにこしかけて1睡する。
ヒーラはそのことがふまんで、「あたたかいねぶくろの中で目をさましたい」と、いつももんくをいっている。
けれども、ハーラにとってはやわらかいクッションがしいてあるていしゃじょうのベンチの上はいごこちがよくて、目をつむって、デンチュウノキのとばすわたぼうしにつかまってツナワタリの子どもが糸をひいてとんでゆくところをおもいうかべていると、ついついうとうととしてガクンとふかいねむりにおちる。
いつものように、みるみるうちにひかりぼしがしずんでゆき、あたりはすっかりくらくなる。
そしてよぞらにはあまの川が、キラキラとまたたきだす。
(ヒーラがあまの川を見られるのは、ふゆのよあけまえとゆうがただけなのよね。そのかわり、あたしだってひかりぼしを見られるのは、なつのよあけまえとゆうがただけ。まあ、おあいこだけどね...)
ハーラはいつものように、ていしゃじょうのたてものの中にはいり、パスを見せてちょうどていしゃ中のロードトレインにのりこむ。

「...というわけで、わたしたちのすむこのじめんは、『おやぼし』のまわりをぐるぐるとまわっている『子ぼし』のまわりを、さらにまわっている『まごぼし』にあたります」
かがくのコノ先生が、たいくつでしかたのないじゅぎょうをすすめる。
きくところによると、ひるにこうかい日記をかいて本にしているケン氏は、コノ先生のじゅぎょうのやりかたは「おもしろみがない」などと、けなしているのだとか。
(コノ先生のじゅぎょうをさんかんしたことのないケンさんが、先生をケチョンケチョンにけなすのもどうかとおもうけどね...)
ハーラはノートにこっそりと、クチバシリがはしっているパラパラどうがをかきながら、そうおもう。

よるの第2ごはんをたべるじかんになり、ハーラはしょくどうに入る。
ハーラはよるの第2ごはんを口にするときはいつも、はさみまんじゅうをかた手にもって『ヒーラの日記』をよむことにしている。
こんやもいつものように、くだものいためをたっぷりはさんだまんじゅうと、コップ1ぱいのやさいじるをけっさいしたあとで、いつもつかうテーブルのかどのせきについて、カバンから『ヒーラの日記』をとりだそうとする。
ところが...。
カバンの中には、きょうかしょとじゅぎょうでつかうノートのほかは、『手じょうをかけられたせじょう官』『わぼしからきた少年』という、ヒーラがけっさいした2さつのおりほんしょうせつ、そして『ほろんだセカイでふたりぼっち』というハーラがけっさいした1さつのおりほんしょうせつが入っていて、かんじんの『ヒーラの日記』が入っていない。
「あら?ない!ない!」
ハーラはあわてて、カバンの中をひっくりかえす。
けれどもでてくるのは、きょうかしょとノートとおりほんしょうせつのほかには、たんぴつぶくろとしめりがみとシャックリどめのくすりに、ネムケザマシのつぶの入ったケースだけ。
ヒーラが学校にいくまえに、じぶんの日記をカバンに入れていたかどうかを、ハーラはおもいだす。
(たしかにヒーラの日記、カバンに入っていた...)
そして、ロードトレインの中にいるときに、どうしていたかをおもいだす。
(そうだ...。さいきんヒーラが日記に絵をかくことにした、ってかいていたから、その絵を見るために、あのコの日記をとりだしたのよ...)
ヒーラの絵をながめていると、だんだんねむくなってきたので、とりあえずざせきのわきに『ヒーラの日記』をおいて、ハーラはうたたねをしていたのである。
そして「ここは~ナキムシていしゃじょう~、ナキムシていしゃじょう~」という、こうないのアナウンスをきいて、ハッと目をさましたハーラは、あわててロードトレインのきゃくしゃからとびだしたのである。
どうやらこのときに、ハーラは『ヒーラの日記』をきゃくしゃにわすれてしまったらしい。
ハーラはオロオロする。
(ど、どうしよう...。ヒーラには、どういいわけをしよう...)
しんぱいごとは、まだある。
学校にかよっている女のコの日記だから、まわりにしられたくないこともたくさんかかれてある。
先生がたも、つねひごろから「こうかい日記ではない、ふつうの日記はほかのヒトには見せてはいけません」と、しつこいくらいにちゅういをしている。
見しらぬふしんしゃに、これまた赤のたにんの日記を見られたら、それこそわるいじけんにまきこまれかねない。

ハーラはもう、気が気でならなくなって、その後のじゅぎょうもうわのそらになってしまう。
そんなわけでこのよる、ハーラはすうがくのじゅぎょうでは先生に「おはなしを聞いてなかったの!?」としかられ、げんごのじゅぎょうでも「先生のおはなしを聞きなさい!!」と、やはり先生にどなられる。
こんなときには、じゅぎょうがあいたじかんにだれでもいいから先生に「だいじな友だちの日記をおとした」とそうだんにのってもらえばよかったけれど、『ヒーラの日記』をおとしてオロオロしていたハーラはそのことにもおもいつかない。
(どうしよう...ヒーラにどういいわけをしよう...どうしよう...ヒーラにどういいわけをしよう...)
ハーラは学校がおわって下校するときも、そんなことばかりをかんがえる。

ほうかご。

ブウン...ブウン...ブウン...ブウン...
ブウン...ブウン...ブウン...ブウン...

ひるまは「キイイッ!キイイッ!」と、耳にひびくようなかんだかいこえでなくヌマオヨギが、よるもたけなわなので、おなかにひびくようなひくいこえでなく。
ハーラは、よるのヌマオヨギのなきごえとおなじくらいおもいきもちでほしぞらの中を、ていしゃじょうにむかってあるく。
ときおり、ながれぼしがキラリとひかっておちてゆく。
「はあ...もういんせきがちじょうにむかっておちてきて、このセカイがほろびるか、あたしとヒーラさんにあたってしんでしまいたい...」
もうハーラは、ヒーラが日記につかっているのではないじぶんのノートかメモがみに、めちゃくちゃにわるくちをかかれることをおもい、とんでもないかんがえにとりつかれる。

「...はあ...」
ハーラはためいきをついて、学校とていしゃじょうとのあいだにある、こうあん局のたてもののまえをとおりすぎる。
日記をロードトレインのきゃくしゃの中にわすれたのなら、こうあん局のじむ官さんにおはなしをして、ついでにていしゃじょうのかかりのヒトにもれんらくを入れると、たぶんなんとかなるかもしれない。
ところが、ハーラはあたまのきれるヒーラとはちがって、ゆうづうのきかないところがある。
いきおい、「ヒーラにおこられる」というかんがえにとりつかれているハーラにはそんなことがおもいつかない。
そしてちかごろでは、こうあん局にわすれもののとどけでをしても「こうあん官はヒマじゃないんだ。子どものあいてをしているよゆうなんてない」などと、どうがを見ながらたいおうするヒトもおおいらしい。
どのみち、やっぱりこうあん局のこうあん官さんは、あてにはならない。
ただ、ひとつすくいなのは、ヒーラがどんなにカンカンにおこったとしても、ハーラをぶったりすることなんて、ぜったいにできっこないということ。
それでもハーラは、てっきゅう刑にされておもいてっきゅうつきの足かせをはめられたはんざいしゃのように、足をひきずるようにあるく。
ほかのヒトからは、ハーラの足には、とうめいな足かせと、てっきゅうがはめられているようにも見えるかもしれない。
あさがきたら、その「足かせ」をはずすせじょう官さんなんてやってこないものの、ヒーラは足どりもかるく「あおい花学校」にとうこうするだろう。
そして学校からかえって、はじめてじぶんの日記がないことに気づいて、ハーラにたいしてものすごくいかりくるうにちがいない。
「...もうかえったらヒーラによんでもらうじぶんの日記に、『あなたの日記をおとしました。ごめんなさい』と、しょうじきにかこう...」
ハーラはすっかりかくごをきめて、ていしゃじょうのたてものの中に入ってパスを見せて、ロードトレインがくるのをまつ。

「...そうだ、あたしもわざと、じぶんの日記をロードトレインの中におきわすれたらいいんじゃないかな...?そうすればおあいこだし...」
ハーラはそうかんがえる。
しばらくたって、ハーラがていしゃじょうについたロードトレインの、7ばんめのきゃくしゃにはいろうとすると...

ぽん!

とつぜん、ハーラはだれかからあたまをはたかれる。
ふりかえってみると、そこには見しらぬ男のコが。
「だ、だれ?あんた...?」
ハーラはふあんなようすで、その男のコにこえをかける。
「あ、ごめんごめん。ちょっとキミに、こえをかけなくちゃ、とおもって...」
そういうとそのコは、かたにななめにかけたカバンから、1さつのノートをとりだす。
「...え?あ、そのノート...!?」
男のコがカバンからとりだしたノートには、大きく『ヒーラの日記』とかかれてある。
男のコは、ハーラにはなしかける。
「これ、キミの日記?ロードトレインのせきにおきっぱなしになっていたよ。うたたねしていたキミが『ここは~ナキムシていしゃじょう~ナキムシていしゃじょう~』っていうアナウンスをきいたとたん、あわててせきをはなれたものだから、となりにすわっていたおれはこえもかけられずにとほうにくれてしまった。でも、こうしてまたあえたから、この日記をわたしておくよ」
ハーラはかんげきする。
「あ、ありがとう!あたしもだいじな友だちの日記をおとしてしまって、とほうにくれていたところなの。これも何かのえんだから、これからもよろしくね!」
「そうか...。キミの友だちのだいじな日記なんだね...。あ、いいわすれていたけど、おれの名まえはボケイ。スネカジリ浦にすんでいる。もしよかったら、今日にでもいっしょにどうがきっさにでもいって、何かえいがかアニメかこうこくでも見ない?」
「ボケイくん」という男のコは、どうやらハーラとおなじように、だれとでもなかよしになりたがるせいかくをしているらしい。
ハーラもこたえる。
「うん!あたしもこれで、友だちのヒーラにやんややんやとあしざまにかかれなくてすむわ。こんやはきねんにどうがきっさにいって『ぜんちぜんのう者でもできないこと』っていうどうがでも見ましょう!」
「あ、そのどうがならひょうばんがいいってきいている。どうがのつづきの『ぜんちぜんのう者でもしらないこと』が、いませいさくのさいちゅうだって」
ハーラとボケイくんは、すうがくのもんだいをとくためにかんがえられた「ぜんちぜんのう者」をしゅやくにしたどうがのわだいでもりあがる。
ともあれ、こんやはハーラにとり、たいへんいいことがあったわけである。

それから、まいばんのようにハーラはボケイくんとあっては、しょくどうでなかよくおはなしをしたり、どうがきっさでえいがを見たりしている。
ボケイくんは、しりあいの「マクー」くんという男のコがどれだけあわてんぼうでじぶんかってなのかを、よくおはなししている。
そしてハーラは、なかよしのヒーラがどれだけじぶんをたいせつにしているのかを、おはなししている。
あるとき、ハーラとボケイくんは、いつものようにどうがきっさでさいきんどうが化された『ほろんだセカイでふたりぼっち』というアニメどうがを見る。
そしてようじをおもいだしたハーラは、見ているとちゅうのどうがもそこそこに、へやをでる。
「ボケイくん、こんやは親父もお袋も出かけていて、りょうりがぜんぜんできない兄貴と姐御のためにごはんをつくらなくちゃならないことをおもいだしちゃった!どうがもとちゅうだけど、いそいでかえるよ!それじゃあ、サヨナラ!」
「あ、ちょっと、ハーラちゃん...」
ボケイくんは、なにかをいおうとする。
しかしハーラは、そんなボケイくんなどおかまいなしに、あわてたようすでかえってしまう。
ひとりぽつねんとのこされたボケイくんは、しかたがないけれどせっかくけっさいしたどうがサービスをむだにしたくはないので、さびしくアニメどうがを見ることになってしまう。

(あらららら...。せっかくどうがきっさでふたりでアニメどうがを見てたのしもうとおもっていたのに、とちゅうからハーラちゃん、いなくなってしまうんだから。おれもモヤッとしてしまうな~)
そしてどうががおわって、ボケイくんもモヤモヤしたおもいでへやをでる。
ところが...

このときにハーラは、じぶんが日記をかくまえにおもいついたことをかきとめておく『ハーラの日記(下がきメモ)』という手ちょうを、へやの中にわすれていっている。
あとでてんいんさんがその手ちょうを見つけて、いつもどうがきっさをりようしているボケイくんにれんらくをするのだけど、このことがハーラとヒーラのなかがわるくなるげんいんになる。
そのことは、これとはまたべつのおはなし。
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