春のお皿コーデ

作家: 柴
作家(かな):

春のお皿コーデ

更新日: 2023/06/02 21:46
現代ファンタジー

本編


「ねぇおかーさーん!こないだIKEAで買ったお皿どこか知らなーい?」

「食洗機の中はもう見たの?」

「見たけどないの!」

「あんたの言ってるのってあの薄水色のやつでしょ?お姉ちゃんが持って行っちゃったんじゃない?」

「うそでしょ!今日私初デートなのに!!」

「薄水色ならニトリで買ったやつもあるじゃない。値段同じくらいでしょ」

「だってあれは普段学校行く時にも使ってるやつだし、IKEAの方がフチまで可愛いから良かったの!もう、最悪なんだけど!
どうしよう〜、こっちのガラス皿だと…さすがに季節感ないって思われちゃうよなぁ」

「まだ肌寒いしねぇ…。あんた、陶芸体験で焼いてきたやつもあるじゃない、あれは?」

「やだよ手作りなんて!確かにお気にだけど初デートで手作り皿なんて重いって!」

「ワガママ言って!それなら、お母さんの美濃焼を使ってもいいわよ」

「美濃焼〜?あれちょっとデザインが古臭いんだもん、ウェッジウッドのやつがいい!」

「あんたアレいくらすると思ってるの、ダメに決まってるでしょ!あれはね、お母さんがお父さんと結婚した時の嫁入り道具なんだから!」

「そんなー!あーもう時間ないよ!どうしよう!?」

「どうせ色水作ったりなにか可愛いの浮かべたりするでしょう?もうニトリのでいいじゃない」

「そりゃ色々するけど、でも〜」

「男の子なんてお皿のブランドなんか女性ほど気にしてないから大丈夫よ。安すぎるものでも無いんだし、それより見栄え華やかに飾ったら大丈夫!」
「そうかなぁ…?」

「そうそう、お父さんもデートの時とかブランドでお洒落してもぜんぜん気づいてくれなかったんだから」

「うーん、じゃあ色水の方でがんばるかー」

「ところであんた、今つけてるダイソーの皿はちゃんと食洗機入れて置いてよー?」

「わかってるー!」

そして娘は、部屋着用のダイソー平皿を頭から取り外し、まだ少し納得のいっていない様子でニトリの平皿を食器棚から取り出すと、水を注いで紅を溶かし始めた。
しかし淡く色づいた水にラメや花などを浮かべ終わる頃には、だいぶ気持ちも切り替わったようだ。精一杯のオシャレをした皿を頭に乗せ家を出ていく娘の顔は、デートへの期待で上気しているように見えた。

相手は同学年の相撲部の子らしい。こないだのバレンタインデーの時に神妙な顔をしてチョコを手作りしていたので、きっとその恋が成就したのだろう。
こないだまで1人で泳ぐのも覚束無いと思ってたのに、いつの間にか彼氏なんて作っちゃって…。
我が子の成長に嬉しさと一抹の寂しさを覚えながらも、母河童は上流へと泳ぎ去る娘の背中を暖かい目で見送り続けた。



「――アイツ……っ、初デートでよりにもよって『春のパンまつり』だった…!」

と娘がカンカンに怒って帰ってきたのは、また別のお話。
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