廻る

作家: 恋本麻由
作家(かな):

廻る

更新日: 2023/06/02 21:46
詩、童話

本編



「ねぇ、あなたはどこに行くの?」
「わからない、だって決めていないもの」
二人を乗せた列車は、がたんごとんと揺れながら進んでいく。
キーっと車輪の軋む音に一人は耳を塞いだ。
「この音嫌い」
「うん、わかるわ」
車窓からの景色は全体的に白く濁っており、シルエットだけがぼんやりと映る。

一人がポケットからカイロを取り出すと、それをぎゅっと揉んだり、シャカシャカと振りだした。
「あなたは寒くないの?」
「もう慣れちゃったからね」
車内には空席がいくつも存在しており、まるで二人だけが世界に取り残されたようであった。

一人がポケットからティッシュペーパーを取り出すと、一枚取ってチーンと鼻を噛みだす。
「あなたもいる?」
「折角だし、貰っておこうかしら」

列車は止まることなくどんどん進んでいく。
ぶら下がっている電球は、不安定にチカチカと光続ける。
トンネルに入った途端、灯りが消えて車内は真っ暗闇に包まれた。

「怖くないの?」
「怖くないわ」
「でも何も見えないよ?」
「大丈夫よ、手を繋ぎましょう」
「手……、冷たいね」
「そういうものよ」
「目、閉じててもいいかな?」
「良いわよ」

「ねぇ、まだかな?」
「まだまだよ」
「あと、どれくらい?」
「今トンネルに入ったばかりじゃない」
「暗いの怖いもん」
「一緒にいるわ」
「でも怖いものは怖いよ」
「じゃあ、肩を
貸してあげるからその間寝ておく?」
「……そこまでしなくてもいいかな」
「それなら頑張りなさい」

「もうすぐ?」
「もうすぐよ」
車内が大きく揺れて、二人は転がりそうになるが、それでも決して手を離すことはなかった。
「もういいかな?」
「大丈夫よ、ほら目を開けて」
次に車窓から見えたものは澄んだ青空だった。先程までの濁りは消え、はっきりと映し出されている。連なる山々も、一面に咲き誇る花畑も全て見えた。
太陽は顔を出しており、光が車内に差し込んだ。
「どう思う?」
「綺麗だと思うわ」
列車の動きに合わせて花びらが揺れる。
桃色の花びらは舞い散り、窓辺に張りついた。

やがて列車は動くのをやめ、ゆっくりと停まった。
一人が立ち上がると、くるりと振り向いた。

「また会える?」
「また会えるわ」
「じゃあ、約束ね」
「えぇ、約束」
二人が指切りすると、ゆっくりと扉が開き出した。すると花びらは車内に舞い込んできて、ひらひらと落ちていく。

「それじゃあ、またね」

扉の先には新たな世界が待っていた。
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