見送られたい

公開
作家:トガシテツヤ
Twitter ID: Togashi_Design
更新日: 2023/03/05 07:23
現代ドラマ
概要

本編

「見送りなんか行かないよ。ドラマみたいでカッコ悪いし」

 1年間、東京から三重県に転勤することになったと伝えると、彼女はそう言い放った。
 僕は「まぁ、見送られるほど大げさなことじゃないから」と心にも思っていないことを言う。

 新幹線の発車2分前――。

「本当に来ないんだな……」

 ガッカリを通り越して呆れた僕は、売店で買ったカツサンドを頬張る。
 少しして、彼女からメッセージが届いた。

「バカ面してカツサンド食ってんじゃないわよ」

 僕は思わず、お茶を吹き出した。

「来てたなら、声かけてよ」

 スーツにこぼしたお茶を拭きながら、短く返信する。

「後ろ向いてみな」

 振り向くと、「あっかんベー」と舌を出す彼女が立っていた。