幻のハンバーグステーキ

公開
作家:トガシテツヤ
Twitter ID: Togashi_Design
更新日: 2023/03/02 06:35
現代ファンタジー
概要

シャッター商店街で出会った、特大サイズのハンバーグステーキ…。
本編

 ――まさにシャッター商店街だな。

 昼間も閑散としていたが、夜になると輪をかけて人の気配がない。旅行の途中に立ち寄っただけの町で、特に何かしようなんて思わないが、コンビニはおろか、食事をするところもないのは困る。
 真っ暗な商店街の中を進むと、ふと、良い匂いが漂ってきた。奥の方に明かりのついた建物が見える。小走りにその建物に駆け寄ると、小さな洋食屋だった。

 ――ようやく飯にありつける。

「いらっしゃい!」

 メガネをかけたおじさんが笑顔で言った。他に客はいないが、とりあえず営業中らしい。メニューを見ると……ハンバーグステーキが430円。写真ではずいぶんとサイズが大きいようなので、もう一度金額を見る。

 ――大丈夫なのかな、これ……。

 安いのはありがたいが、安すぎると逆に不安になる。ぐうっとお腹が鳴るのと同時に、「ハンバーグステーキ! ライスセットで!」と叫んだ。出て来たハンバーグステーキは……写真と全然違う。むしろ、超デカい。
 店主に礼を言い、満足度120%で店を出た瞬間、「明日も来よう」と決めた。

 翌日、昼間に来ると、店は中華料理屋になっていた。

 ――なんで?

 店を間違えたのかと思い、キョロキョロしていると、「いらっしゃい! やってますよ!」と声をかけられた。昨日の洋食屋の店主……いや、似ているが、違う気がする。

「あのー、ここって洋食屋さんだったと思うんですが……」
「ああ、洋食屋ね……」

 そう言うと、店主は少し黙った。

「昔、親父がやってたんですよ。16年前に亡くなりましてね」
「そう……だったんですか」

 心の中で「ありがとう。ご馳走様でした」と手を合わせ、店の中に入った。