雨と嘘

作家: 座敷童子
作家(かな): ざしきわらし

雨と嘘

更新日: 2023/06/02 21:46
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本編


貴女と出会ったのは7月の雨の夜。ゲリラ豪雨というヤツでやっと辿り着いたお店の軒下、ずぶ濡れの貴女がいた。しばらく黙っていたけれど、なかなか止まない雨の暇つぶしに僕が貴女に声をかけた。

「やんなっちゃいますね」

えっ?と振り向いた貴女の瞳からは涙が溢れていた。雨でわかりづらかったけど貴女は泣いていたのだ。僕は後悔した。泣いてる女の人は苦手だ。
だけど、声をかけた手前、

「大丈夫ですか?」

貴女は

「大丈夫です」

と弱々しく笑った。その瞬間、守ってあげたいとよく知りもしない貴女に抱いた感情。それがなんだったのか今ならよくわかる。僕は貴女に一目惚れしたんだ。

どうにか貴女の涙を止めたくて僕はバカみたいに話続けた。たいして面白くもない話を貴女はクスクスと小さい声で笑っていた。

あの夜をきっかけに僕は貴女と会うようになった。貴女には旦那がいたけど、僕はそれでも構わなかった。僕は貴女に会えるだけで良かったから。

ある日、貴女は泣きながら僕に電話してきた。旦那が暴力をふるってきたと。そして、これが初めてではないということも。僕は、居てたってもいられず貴女を迎えに行ってそのまま、僕の家に連れてきた。もう、旦那の元に帰す気はなかった。貴女ももう戻らないと約束してくれた。その夜、僕たちは同じベッドで眠りについた。

そして夜中、雨音で目覚めた僕は、貴女の嘘を知る。不自然に空いた隣。貴女は僕ではなく、旦那を選んだんだ。
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