現代落語 キラキラネーム

作家: 狸寝入り
作家(かな):

現代落語 キラキラネーム

更新日: 2023/06/02 21:46
その他

本編


お囃子の音ともに幕が上がる。

壇上で正座をし頭を下げた男がゆっくりと前を向く。

百数席の会場は満席。立ち見客も入る賑わいだ。

男はにっと広角をあげ、行きを吸い込む。

「え~、こんなたくさん集まって今日はとても気分がいいね~。では、新作いっちゃいますか」

男の語りが始まる。

「とある病院でね男の子が生まれたんですよ。両親は初めての子供に大喜びのおおはしゃぎでたいそう喜んだのよ。で、名前をどうするか二人は話し合った。父親は、一樹(かずき)はどうだって、提案したんだけど母は元気に育って欲しいから元(げん)がいいかなって言ったんだって二人は顔を見合わせてどちらも
ステキだ困ったなと笑いあった。そこで父が提案するんだ。こうなったら、病院の皆にも聞いてみるかって言ったんだ。それに母も賛同して、二人は別々に意見を聞きに回ったそりゃもう、医院長から他の妊婦さんまで選り取り見取りってぐあいに名前の意見を聞きまくったんだ。そして二人で市役所に名前を届けに言ったんだ。え~、この名前で本当によろしいんですか?役所の中年の男は怪訝そうに聞き返す。はい、とても縁起のいい名前だと思うんです父がそう言い。母は二人で悩んだんです~と主張する。二人の幸せそうな様子にでは、復唱して受理しますね?と返した。そして、名前を読み上げる。司(つかさ)リチャード天財心(てんざいしん)縁(ゆかり)道(ロード)強運(きょううん)一樹(かずき)でよろしいですね?二人はにこやかにはいって返事を返してその名前で受理されたんだ。そこからは言うまでもねえよな?この名前で苦労するんだよ。バイトでは名前をバカにされ、就職しようにもこの名前は……みたいに言われてしまうんだ。でもどうにか仕事を見つけて、毎日頑張って働いたんだよ。だけどある日路上で過労で倒れてしまうんだよ。そこに通りかかった若い女性があわてて、救急に電話してくれたんだ。倒れてる人の名前は?って聞かれて保険証を見て困惑しながらも。司リチャード天財心縁道強運一樹ってルビを見ながら間違いなく読み上げてまた復唱しますねって。司(つかさ)リチャード天財心(てんざいしん)縁(ゆかり)道(ロード)強運(きょううん)一樹(かずき)と救急隊員が言うんだ二人は緊迫してるのにもう笑い止まらない。その電話を切り終える頃に救急車が到着して男は助かったんだけど、病院でも笑い者さ、でも男はなれたもんで、おどけながら自己紹介をして入院生活を過ごしたんだよ。そんな男の前に救急車を呼んだ女性が訪ねてきたんだ。あの、その名前、キラキラネームですよね?唐突に言われた男は怪訝な顔をしながらも、そうだよ!救急車を呼んでくれたんだって?ありがとうって返事を返したんだ。すると女性はいえいえ、実は私も……っていいながら、名刺を男に渡したんだ。その名刺には希蘿蘿(きらら)てっ書いてあったんだ。二人はキラキラネーム同士ってことで、苦労話や笑い話で盛り上がって仲良くなったんだ。その後二人は付き合ってめでたく結婚したんだ。そのあと産まれた子供の名前は花子(はなこ)にしたそうな。お後がよろしいようで~」

男が深々と頭を下げて幕が下りていく。

場内いっぱいの拍手に見送られながら
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