猫と風鈴と

作家: 座敷童子
作家(かな): ざしきわらし

猫と風鈴と

更新日: 2023/06/02 21:46
その他

本編


僕は猫である。由緒正しき猫である!
野良猫になって3年。なんとか生きてる!

今年もまた、この季節がやってきた。
夏。
暑くてたまらない夏。
僕たち猫にとって過酷な季節だ。
なんとか涼しい場所を見つけては、じっと過ぎ去るのを待つ。
猫のいるところは涼しいなんて人間は言うけど、その場所を見つけられなかったら死活問題なんだよ!

そんな夏だけど、僕はあの音が大好きだ。
リンリーン
風鈴の音。
僕のお得意先の縁側には、この季節、風鈴がかけられる。
風にたなびいて奏でる音。
この音を聞いてると…お腹がすいてくる。
お得意先には、僕にご飯をくれるおばあちゃんがいて僕を呼ぶためにこの風鈴を鳴らすんだ。
風にたなびいている時とは違って力強く鳴らされる。
リンリン!リンリン!
その音がしたら僕はどんなに遠くにいても飛んでいくよ!

今年も夏が来た!
あの音が聞こえる…
リンリーン
風にたなびいて奏でる音…
リンリーン
リンリーン
リンリーン
風鈴の音が聞こえない。

僕はおかしいなと思った。
もう、夏は来たのに。
あの風鈴の音が聞こえない。

そういえば、おばあちゃんの姿もずっと前から見てない気がする。
最後にご飯くれたのいつだっけ?

その年の夏。僕は1度も風鈴の音を聞かなかった。


リンリーン…
ある冬の日。あの音が聞こえた。
リンリン!リンリン!
力強く鳴らされる音!
僕は縁側に飛んで行った。

そこにいたのは、小学生ぐらいの男の子。
風鈴を持って遊んでいた。
おばあちゃんじゃない。
僕はそっと家の中を覗いてみた。
おばあちゃんが布団に横になっている。
おばあちゃん、寝てるのかな。
僕はおばあちゃんに近づこうと家の中に入った。
すると
「こらっ!シッシッ!その猫、外に連れ出して!遺体に近づけちゃいけないよ」
そんな声が聞こえてきた。男の子がどうして?と聞くと
「昔からの迷信だよ。猫が遺体をまたぐと生き返るって言われてるんだよ」
「生き返るならいいじゃん」
「生き返ってもそれはおばあちゃんじゃない。化け猫なんだよ。ほらっあっちいけ!」
僕は追い出されてしまった。
化け猫?
失礼しちゃうよ。僕はただの由緒正しき野良猫さ!
そっか…おばあちゃんはもういないんだ。
追い出された縁側に、ほうって置かれた風鈴と一緒に、僕はいつまでもいつまでも座っていた。
おばあちゃんの優しい笑顔を思い出しながら。
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