劇団会議
劇団会議
更新日: 2023/06/02 21:46現代ドラマ
本編
《劇団会議》
純一、
「次の公演のことなんだけれど…どうするみんな」
睦美、
「どうもこうもないわよ、やめようよもう、こんなの」
誠人、
「コ、こんなのって…」
健太、
「どういうことやめるって」
純一、
「マァマァ」
睦美、
「もうやっても意味ないよ、お客はいらないし」
誠人、
「お客は要らない?」
睦美、
「バカじゃないのアンタ」
純一、
「睦美、意味ないことないだろ、この世に意味のないことなんてないんだよ、あの若きウェルテルの悩みを書いた彼だって言っているぜ、世の中は暗喩に満ち満ちている。全てが自分を成長させるメタファーなんだって」
誠人、
「彼って誰だよ」
睦美、
「五年間黙々とやってきてよ。総動員数が三千人に満たないってどういうこと。それは面白くないからでしょ。結果が物語っている」
男三人に硬い沈黙が降りる。すかさず睦美、
「私、劇団やめるわ」
純一、
「うわっ、サラっと爆弾発言」
睦美、
「私、赤ちゃんできたみたい」
全員が黙る。健太は敢えて明るい声で、
「…さらに爆弾発言するねえ」
誠人と純一は揃って沈黙、睦美、
「誰の子だかわかる?」
誠人、純一、健太、三人とも動揺しながら、
「…だっ誰かなあ」
睦美、
「もう堕胎せない」
三人、
「…」
睦美、
「劇団は降りるけど………………」
間、そして睦美、
「お父さんはこの中にいるわ」
男三人、
「…」
睦美、
「私はB型、であなたたちは?」
誠人、
「俺はA」
純一、
「俺もA」
健太、
「俺もA」
健太、
「な、何で全員に聞くんだよ」
睦美、
「三人に聴いたわけじゃないわ、三人が勝手に答えたのよ」
純一、
「睦美ちゃん、自分で知ってるんだろ、おなかの子のお父さん」
睦美、
「それが…」
誠人、
「えっ、どういうこと?」
純一、
「頭が混乱してきた」
睦美、
「分からないの」
純一、
「話を整理しよう。睦美ちゃんが妊娠をした。それで劇団を降りたいと言い出した。そこまでは分かる、売れない三流劇団によくある話だ。問題はそれからだ。マァこの劇団も劇団内の恋愛は御法度だったはず。それはみんな承知のはずである」
誠人、
「それってただの暗黙の了解だろ。そんなもん」
健太、
「それなのに睦美ちゃんはオレら全員に血液型を聞いてきた。それはつまりその、」
純一は自分のセリフに悦に入った感じで喋り出す、
「お父さんを断定したいが為だった!だけどオレらは全員A型だ!」
誠人と健太も純一のノリに乗って、
「…えっ、マジで!」
睦美は半分呆れ返って目をキョトンとさせている。三人はうつむいている。重い間が降りる。そして誠人が、
「なんだ、その沈黙は、開き直りか?」
睦美、
「…」
純一、
「ビョ、病院はいったの」
睦美、
「マダだけど」
健太、
「じァ、じァあ、まだ分からないじゃん。妊娠しているかどうかが。そっ、そ、想像妊娠かもしれないし…」
誠人、
「睦美に失礼だぞ。そんでナニ焦ってんダヨ健太、怪しいなァ」
睦美は箱を取り出し、
「市販の妊娠検査薬で陽性がでた」
男三人、
「…」
誠人、
「健太さん、奥さんと子供いるんでしょ。どういうこと。今の奥さんだって臨月だって言ってたし」
健太、
「どうもこうも…その…」
純一、
「誠人も彼女いるじゃん。お前こそどうよ」
誠人、
「どうよってどういうことよ」
健太、
「浮気ってことよ」
誠人、
「妻子がいる人に言われたくないなァ、健太さんは不倫でしょ。いわば、未来ない若者の恋愛のもつれと不倫を一緒にされたくないなァ」
健太、
「…」
睦美、
「生理がもう三ヶ月来ない。酸っぱいものが異常に欲しくなる」
話題を変えるように誠人、
「さ、最近、アレだよね、アレ、ホワイトバンドってやつが再流行しているんだって。ニュースでやっていましたよね。二千年以来だって。みんな知ってる?ホワイトバンド。そのホワイトバンドを手首に身につけて世界を救おうってキャンペーンらしんだ。オレあれさ、思うんだけれどイカリングにそっくりだよね。イカリング腕につけてても分からないよね。イカリングならいざとなったら食べられるし、ディカプリオやブラッド・ピット、キャメロン・ディアスとかレディ・ガガとかマー君やイチローや錦織がイカリングつけてたら面白くない?」
純一、
「お前のその話のほうが面白くない。何年前の話だよ」
誠人、
「…確か十五年前かな。でも今また再ブレイ」
そのセリフを遮るように重い間が降りる。重い間が怖い健太、
「おれはさ、一度だけだよ。睦美ちゃんとは、ほんと、たったの一度だけ」
他の二人、
「い、い、一度だけ?って一度なら許してもらえる懺悔なのか今のは?」
睦美は健太をまるで親の仇のように睨み、
「睦美ちゃん、とは?って、ハァ?」
誠人、
「ここにきてカミングアウトですか。いまさらそんなこといわれてもねえ。信じられないよねえ」
純一は人生を諦観したような低い声で、
「確かに。でも睦美の話が真実であればだ。何だか先に真実を語った方が罪が軽くなる気がする…」
健太は純一に向かって、
「純一、お前はどうなのよ。やれ演出がどうの、やれ衣装がどうのって、いつも睦ちゃん誘ってどこで何をしていたのよ」
純一は目の光を落とし、俯きながら、
「それはその…」
誠人はまるで大阪商人が手揉みをしながら純一の顔を覗き込むように、
「ほう、演出家さんの特権ってやつですか。羨ましいですねぇ」
純一は我慢の限界がきたという感じで、
「もう、どうにでも取ってくれヨ」
健太、
「え、ここにきて逆ギレ?マジっすか」
さらに誠人、
「認めたってことですか、ん?」
健太、
「やっぱり、純一だったか」
純一は堰を切ったダムのように言葉をこぼす。
「演出家の苦労ひとつ知らない売れない役者に言われたくないね」
誠人と健太は目を合わせ、
「なに、もう一度言ってみろ!」
純一はゆっくりとした口調で、
「だ、か、ら」
睦美は話を遮るように、
「やめて、見苦しい」
健太は睦美と純一を交互に見て、
「睦美は純一を庇いますか。やっぱり。できてたのネ、お二人さん」
誠人、
「きまりだな」
純一、
「誠人はどうなんだよ」
誠人、
「オレは事実無根、清廉潔白ですよ」
睦美、
「それは違う」
健太、
「逆転有罪、執行猶予なし!」
純一、
「お前らだって、自主稽古だのなんだの理由つけて何をしているかわかりゃしない」
健太、
「自分のことはあまり言えんが、純一の言うことに一理ある」
誠人、
「健太さん、自分のこと棚に上げないでくださいよ」
健太
「俺が言いたいのは」
純一、
「まあ、ここは誰もが睦美ちゃんの赤ちゃんのお父さんである可能性はあるわけだし、冷静に話し合おうよ」
健太、
「どう、睦美ちゃんに選んでもらうって言うのは」
誠人
「それは冷静を超えている。医学も生物工学も超えている。呪術師式か!この期に及んでなんてこと言うんだ健太」
純一、
「そうだ。そういう問題じゃない。普通に考えて」
誠人、
「普通がなんだか判らなくなってきた。少なくとも真面目に考えよう」
純一、
「お前が一番真面目じゃない。どんな劇団なんだよ、ここは」
健太、
「劇団内恋愛はマァ、防ぎようがない。それは運命的に起こりうる。としてもだ。女優が劇団内で三人と、ってねぇ…」
誠人、
「だからオレ、劇団作るときアレだけ言ったでしょ。劇団内のこういうのは御法度なんだって。稽古は出来なくなるし、芝居は悪くなるし。本番には最悪の事態を齎すし、いいことなんてひとつも無いんだから」
純一、
「でも結局、オレたちもほかの劇団にもれずに同じことしてたわけだ」
誠人、
「あゝ、そうだ。オレも最低なんだよ」
睦美はさっぱりとした声で、
「私、一人で産む」
誠人、
「またァ、いやだから、そういう問題じゃないでしょ。睦美ちゃん」
睦美、
「私、遊ばれたってことでしょ」
三人、
「…」
健太、
「オレは遊んだつもりはないよ」
誠人
「はァ?奥さんいるのによく平気でそんなこと言えるねェ。奥さんと子供さんとお腹の赤ちゃんに耳かっぽじって聴くいてもらいたいわ」
純一、
「オレ、育てるよ。責任あるし」
誠人、
「あッ、開き直りやがった」
健太、
「そうだ、DNA検査すれば分かるよ。今の時代、血液型で親父決めるなんて時代遅れだろ」
睦美、
「これで決まりだね」
誠人、
「はい、今日はここまで」
睦美、
「いまいち、話の内容にリアリティが無かったんじゃない」
健太、
「いや、設定に無理があるんだよ」
睦美、
「話の内容も盛り上がらなかったしねェ」
誠人、
「じゃあ、明日は男三人がホモでバイを告白するって設定はどう」
睦美、
「いまいちなァ。ありきたりじゃない」
健太、
「ありきたりじゃないだろ。そんな状況ありえないでしょ、普通」
誠人、
「どんなありえない状況でもリアリティを作り出すのが役者の仕事じゃない。なに言ってんのヨ。オレが思うにさ、締まりがないんだよ。オレらの会話には。その、切羽詰った感、いまいち、その、なんつうか緊張感が足りないんだよね」
純一は項垂れて、
「今日のオチ。つまらなくてごめん」
睦美は優しくなだめるように、
「そこが売れない劇団の原因じゃな〜いかしら?」
健太も項垂れ、
「実も蓋も無いことを…」
誠人、
「とにかく、来週は三人がバイセクシュアルの設定で。睦美ちゃんは自分が男で尚かつホモだと思い込んでいる女、その葛藤を途中で暴露。健太も同じね。自分が女で生まれてきて男だと思い込んでいる性同一性障害のホモ、途中、睦美ちゃんの暴露きっかけで自分のホモの葛藤を吐露。それからさ、睦美ちゃん。もっと積極的に話しに入ってこなきゃ。存在感がいまいち薄くなるからさ。男二人のキャラが濃いからっていうのもあるけど、頑張るところは頑張って輪に入って行こう。他の二人もさ、次回までにちゃんと役作りしてきてください。ノリだけで演じないで。頑張っている睦美ちゃんに失礼だろ。芝居に余裕があるんだったら睦美をサポートしてくれ。じゃあ、来週の火曜日ね。話のオチは睦美ちゃんね」
睦美、
「ハイ」
〈了〉
0純一、
「次の公演のことなんだけれど…どうするみんな」
睦美、
「どうもこうもないわよ、やめようよもう、こんなの」
誠人、
「コ、こんなのって…」
健太、
「どういうことやめるって」
純一、
「マァマァ」
睦美、
「もうやっても意味ないよ、お客はいらないし」
誠人、
「お客は要らない?」
睦美、
「バカじゃないのアンタ」
純一、
「睦美、意味ないことないだろ、この世に意味のないことなんてないんだよ、あの若きウェルテルの悩みを書いた彼だって言っているぜ、世の中は暗喩に満ち満ちている。全てが自分を成長させるメタファーなんだって」
誠人、
「彼って誰だよ」
睦美、
「五年間黙々とやってきてよ。総動員数が三千人に満たないってどういうこと。それは面白くないからでしょ。結果が物語っている」
男三人に硬い沈黙が降りる。すかさず睦美、
「私、劇団やめるわ」
純一、
「うわっ、サラっと爆弾発言」
睦美、
「私、赤ちゃんできたみたい」
全員が黙る。健太は敢えて明るい声で、
「…さらに爆弾発言するねえ」
誠人と純一は揃って沈黙、睦美、
「誰の子だかわかる?」
誠人、純一、健太、三人とも動揺しながら、
「…だっ誰かなあ」
睦美、
「もう堕胎せない」
三人、
「…」
睦美、
「劇団は降りるけど………………」
間、そして睦美、
「お父さんはこの中にいるわ」
男三人、
「…」
睦美、
「私はB型、であなたたちは?」
誠人、
「俺はA」
純一、
「俺もA」
健太、
「俺もA」
健太、
「な、何で全員に聞くんだよ」
睦美、
「三人に聴いたわけじゃないわ、三人が勝手に答えたのよ」
純一、
「睦美ちゃん、自分で知ってるんだろ、おなかの子のお父さん」
睦美、
「それが…」
誠人、
「えっ、どういうこと?」
純一、
「頭が混乱してきた」
睦美、
「分からないの」
純一、
「話を整理しよう。睦美ちゃんが妊娠をした。それで劇団を降りたいと言い出した。そこまでは分かる、売れない三流劇団によくある話だ。問題はそれからだ。マァこの劇団も劇団内の恋愛は御法度だったはず。それはみんな承知のはずである」
誠人、
「それってただの暗黙の了解だろ。そんなもん」
健太、
「それなのに睦美ちゃんはオレら全員に血液型を聞いてきた。それはつまりその、」
純一は自分のセリフに悦に入った感じで喋り出す、
「お父さんを断定したいが為だった!だけどオレらは全員A型だ!」
誠人と健太も純一のノリに乗って、
「…えっ、マジで!」
睦美は半分呆れ返って目をキョトンとさせている。三人はうつむいている。重い間が降りる。そして誠人が、
「なんだ、その沈黙は、開き直りか?」
睦美、
「…」
純一、
「ビョ、病院はいったの」
睦美、
「マダだけど」
健太、
「じァ、じァあ、まだ分からないじゃん。妊娠しているかどうかが。そっ、そ、想像妊娠かもしれないし…」
誠人、
「睦美に失礼だぞ。そんでナニ焦ってんダヨ健太、怪しいなァ」
睦美は箱を取り出し、
「市販の妊娠検査薬で陽性がでた」
男三人、
「…」
誠人、
「健太さん、奥さんと子供いるんでしょ。どういうこと。今の奥さんだって臨月だって言ってたし」
健太、
「どうもこうも…その…」
純一、
「誠人も彼女いるじゃん。お前こそどうよ」
誠人、
「どうよってどういうことよ」
健太、
「浮気ってことよ」
誠人、
「妻子がいる人に言われたくないなァ、健太さんは不倫でしょ。いわば、未来ない若者の恋愛のもつれと不倫を一緒にされたくないなァ」
健太、
「…」
睦美、
「生理がもう三ヶ月来ない。酸っぱいものが異常に欲しくなる」
話題を変えるように誠人、
「さ、最近、アレだよね、アレ、ホワイトバンドってやつが再流行しているんだって。ニュースでやっていましたよね。二千年以来だって。みんな知ってる?ホワイトバンド。そのホワイトバンドを手首に身につけて世界を救おうってキャンペーンらしんだ。オレあれさ、思うんだけれどイカリングにそっくりだよね。イカリング腕につけてても分からないよね。イカリングならいざとなったら食べられるし、ディカプリオやブラッド・ピット、キャメロン・ディアスとかレディ・ガガとかマー君やイチローや錦織がイカリングつけてたら面白くない?」
純一、
「お前のその話のほうが面白くない。何年前の話だよ」
誠人、
「…確か十五年前かな。でも今また再ブレイ」
そのセリフを遮るように重い間が降りる。重い間が怖い健太、
「おれはさ、一度だけだよ。睦美ちゃんとは、ほんと、たったの一度だけ」
他の二人、
「い、い、一度だけ?って一度なら許してもらえる懺悔なのか今のは?」
睦美は健太をまるで親の仇のように睨み、
「睦美ちゃん、とは?って、ハァ?」
誠人、
「ここにきてカミングアウトですか。いまさらそんなこといわれてもねえ。信じられないよねえ」
純一は人生を諦観したような低い声で、
「確かに。でも睦美の話が真実であればだ。何だか先に真実を語った方が罪が軽くなる気がする…」
健太は純一に向かって、
「純一、お前はどうなのよ。やれ演出がどうの、やれ衣装がどうのって、いつも睦ちゃん誘ってどこで何をしていたのよ」
純一は目の光を落とし、俯きながら、
「それはその…」
誠人はまるで大阪商人が手揉みをしながら純一の顔を覗き込むように、
「ほう、演出家さんの特権ってやつですか。羨ましいですねぇ」
純一は我慢の限界がきたという感じで、
「もう、どうにでも取ってくれヨ」
健太、
「え、ここにきて逆ギレ?マジっすか」
さらに誠人、
「認めたってことですか、ん?」
健太、
「やっぱり、純一だったか」
純一は堰を切ったダムのように言葉をこぼす。
「演出家の苦労ひとつ知らない売れない役者に言われたくないね」
誠人と健太は目を合わせ、
「なに、もう一度言ってみろ!」
純一はゆっくりとした口調で、
「だ、か、ら」
睦美は話を遮るように、
「やめて、見苦しい」
健太は睦美と純一を交互に見て、
「睦美は純一を庇いますか。やっぱり。できてたのネ、お二人さん」
誠人、
「きまりだな」
純一、
「誠人はどうなんだよ」
誠人、
「オレは事実無根、清廉潔白ですよ」
睦美、
「それは違う」
健太、
「逆転有罪、執行猶予なし!」
純一、
「お前らだって、自主稽古だのなんだの理由つけて何をしているかわかりゃしない」
健太、
「自分のことはあまり言えんが、純一の言うことに一理ある」
誠人、
「健太さん、自分のこと棚に上げないでくださいよ」
健太
「俺が言いたいのは」
純一、
「まあ、ここは誰もが睦美ちゃんの赤ちゃんのお父さんである可能性はあるわけだし、冷静に話し合おうよ」
健太、
「どう、睦美ちゃんに選んでもらうって言うのは」
誠人
「それは冷静を超えている。医学も生物工学も超えている。呪術師式か!この期に及んでなんてこと言うんだ健太」
純一、
「そうだ。そういう問題じゃない。普通に考えて」
誠人、
「普通がなんだか判らなくなってきた。少なくとも真面目に考えよう」
純一、
「お前が一番真面目じゃない。どんな劇団なんだよ、ここは」
健太、
「劇団内恋愛はマァ、防ぎようがない。それは運命的に起こりうる。としてもだ。女優が劇団内で三人と、ってねぇ…」
誠人、
「だからオレ、劇団作るときアレだけ言ったでしょ。劇団内のこういうのは御法度なんだって。稽古は出来なくなるし、芝居は悪くなるし。本番には最悪の事態を齎すし、いいことなんてひとつも無いんだから」
純一、
「でも結局、オレたちもほかの劇団にもれずに同じことしてたわけだ」
誠人、
「あゝ、そうだ。オレも最低なんだよ」
睦美はさっぱりとした声で、
「私、一人で産む」
誠人、
「またァ、いやだから、そういう問題じゃないでしょ。睦美ちゃん」
睦美、
「私、遊ばれたってことでしょ」
三人、
「…」
健太、
「オレは遊んだつもりはないよ」
誠人
「はァ?奥さんいるのによく平気でそんなこと言えるねェ。奥さんと子供さんとお腹の赤ちゃんに耳かっぽじって聴くいてもらいたいわ」
純一、
「オレ、育てるよ。責任あるし」
誠人、
「あッ、開き直りやがった」
健太、
「そうだ、DNA検査すれば分かるよ。今の時代、血液型で親父決めるなんて時代遅れだろ」
睦美、
「これで決まりだね」
誠人、
「はい、今日はここまで」
睦美、
「いまいち、話の内容にリアリティが無かったんじゃない」
健太、
「いや、設定に無理があるんだよ」
睦美、
「話の内容も盛り上がらなかったしねェ」
誠人、
「じゃあ、明日は男三人がホモでバイを告白するって設定はどう」
睦美、
「いまいちなァ。ありきたりじゃない」
健太、
「ありきたりじゃないだろ。そんな状況ありえないでしょ、普通」
誠人、
「どんなありえない状況でもリアリティを作り出すのが役者の仕事じゃない。なに言ってんのヨ。オレが思うにさ、締まりがないんだよ。オレらの会話には。その、切羽詰った感、いまいち、その、なんつうか緊張感が足りないんだよね」
純一は項垂れて、
「今日のオチ。つまらなくてごめん」
睦美は優しくなだめるように、
「そこが売れない劇団の原因じゃな〜いかしら?」
健太も項垂れ、
「実も蓋も無いことを…」
誠人、
「とにかく、来週は三人がバイセクシュアルの設定で。睦美ちゃんは自分が男で尚かつホモだと思い込んでいる女、その葛藤を途中で暴露。健太も同じね。自分が女で生まれてきて男だと思い込んでいる性同一性障害のホモ、途中、睦美ちゃんの暴露きっかけで自分のホモの葛藤を吐露。それからさ、睦美ちゃん。もっと積極的に話しに入ってこなきゃ。存在感がいまいち薄くなるからさ。男二人のキャラが濃いからっていうのもあるけど、頑張るところは頑張って輪に入って行こう。他の二人もさ、次回までにちゃんと役作りしてきてください。ノリだけで演じないで。頑張っている睦美ちゃんに失礼だろ。芝居に余裕があるんだったら睦美をサポートしてくれ。じゃあ、来週の火曜日ね。話のオチは睦美ちゃんね」
睦美、
「ハイ」
〈了〉