田中さん
田中さん
更新日: 2023/06/02 21:46現代ドラマ
本編
私の背中には幽霊がいます。私が何をするにも色々話しかけてきて時には私をひどく困らせます。アノ時、私は小学4年生になったばかりの春でした。それまでの私は幽霊と言うものは決まって夏にでて、その上怖いものだと決めつけていた自分がいて、本物の幽霊と出喰わした時、次第にバカバカしくも思えてきました。
夏になれば、テレビ番組などで怖い話がたくさん放送されます。その中に怖い幽霊がたくさん出てきます。ですが私にとりついている幽霊は怖い幽霊ではなくただの幽霊です。名前は田中さんといいました。
田中さんはとても気が弱く、人に強くものを言えない質で、誰に取りつこうか迷っていたところ、学校の帰りに豆腐屋の店先で油揚げを作っているところをずっと飽かず眺めていた私に、ようやく目星をつけ、声をかけたそうです。後で訊けば百八回目での成功だったそうです。
私に話しかけてきた当初、そんなことはオクビにも出さず、学校の帰り道の間抜けな道草少女だと思い込んで声をかけたそうです。
ということは、百八回目でやっと成功をした田中さんの言うことにも分があるとすれば、当時の私はやはり間抜けな少女だったのかもしれません。
田中さんは生前、佐和子さんという女性と結婚して幸せな毎日を送っていたそうです。田中さんは朝の通勤途中、私が道草を食っていた豆腐屋の角で不慮の事故で亡くなったそうです。原因は私がいくら聞いても恥ずかしがって話してくれません。元奥さん、いや奥さんの佐和子さんをずっと豆腐屋の角で待っていたらしいです。自分が死んだとも気づかずに。そこで私に尋ねたらしいのです。
「もしもし、君には私が見えますか」
「えェ、見えますよ、それがどうしたのですか」
「いや、ドウも他のヒトは私に気づいてくれなくて困っていたところなんです」
背広姿の田中さんは半透明で、向こう側の豆腐屋主人の仕事ぶりが良く見えました。
「透けていますよ」
「何がですか」
「だからあなたの…エェト、名前は」
「田中進一といいます」
「田中さんの身体、透けていますよ」
「どういうことでしょう」
「私が勝手に思うのですが、田中さん、幽霊なんじゃありませんか」
「死んでいるということですか」
「たしか、一年前くらいにこの豆腐屋の角で事故死をした人がいました。豆腐の角じゃなく豆腐屋の角で頭をぶつけて死んだ間抜けなサラリーマンがいたと噂になりました」
「今日は何日ですか」
「3月10日です」
「そうですか、やっぱり」
「ハイ今日は確かに3月10日です。何か話。かみ合ってませんね」
「今年は何年ですか」
「1997年です」
「え、1996年じゃないのですか」
「はい、今日は1997年の3月10日です」
「佐和子は…ええと私の妻を知りませんか」
「知りません」
「そんな冷たくしないでください」
「私、田中さんが幽霊だからって怖くありませんからね」
「この際、私が幽霊だということは少し横へ置いておいて、きちんと物事を整理しながら話をしましょう。君、名前は?」
「ミサトです」
「ミサトちゃんは私が見える。だけれど、他の人は私が見えない。声も聞こえない」
「ハイ」
「去年の今、ココで死んだ人がいる」
「エェ」
「思い出したぞ、僕は自転車で転んだんだ。こ、コノ豆腐屋の角を曲がったところで。転んだ拍子に運悪く、いや違う」
実は私、田中さんに少し飽きてきていました。
「帰っていいですか」
「チョット待った、こ、転んだ時、いや転んだ場所に岩が、」
「、」
「岩じゃなく、やっぱり運悪く地面に頭をぶつけた。ぶつけたどころが悪く」
「そう見たいですね」
「どういう意味かな?」
「すみません、どうぞ話を先に進めてください」
「いやァ、私の勝手な想像ですがね」
「嘘つき」
「でも私は佐和子を待っている。イヤ佐和子が家で私を待っている」
「誰です佐和子って」
「私の妻です。去年結婚したばかりです。去年といっても1995年の話ですが」
「一昨年になりますね」
「今日はその結婚一周年記念日で帰りに指輪を買って帰ろうと思って浮き足立って家を出た記憶があります」
「去年のことですよね。それに私、田中さんの話に興味ありませんから、帰っていいですか」
「ま、待ってください。今、私と会話できるのがミサトちゃんだけなんだから。今度、何時、私が見えるヒトと出会えるか分からないし」
「じゃあ、明日また会いましょう。学校の通学路ですから、それに私、豆腐屋主人のあの軽やかな仕事を眺めるのが好きですから、何時でもいます。いつでも声かけてください」
「今日は急いでいるの?ミサトちゃん」
「気安くヒトの名前を呼び捨てにしないでください」
「じゃあ、なんて呼べばいいのですか」
「すいません。初めて会ったヒトには気をつけなさいと母に言われていますから。別に田中さんだけを怪しんでいるわけじゃ…」
「その目つきは十分怪しんでいる目つきですよ」
「バレました」
「バレバレです」
「ふふふ」
「フフフ、じゃないですよ、…植田美里ちゃん」
「えっ、な何で私の名字知っているんですか」
「名札、つけているじゃないですか」
「ビックリした」
「ハハハ」
「お互い様ですね」
「こんなコトをする為にミサトちゃんと会話をしているんじゃないんだ」
「私じゃなかったら警察呼ばれていますよ」
「警察にも見えるヒトと見えないヒトがでて混乱するだけです」
「、」
「佐和子は元気にしていますかねえ」
「知りません」
「もうそれだけが心残りで」
「もしかしたら、佐和子さんに会ったら成仏できるかもしれませんね」
「僕もそんな気がします」
「成仏のヒントが見つかってよかったですね」
「会わせてもらえませんか」
「えっ」
「だから、佐和子に会わせてもらえませんか」
「それは、ちょっと」
「一生のお願いです」
「田中さんの一生はもう終わっているでしょう」
「…」
「チョット面白くありません。今の」
「面白くありません」
「…ネェ、ミサちゃん」
「馴れ馴れしくしないで下さい。気持ち悪い」
「、」
「佐和子さん、もう新しいヒト見つけて再婚して幸せに暮らしているかも知れませんよ」
「そんな」
「ありえますよ」
「私、どうしたら」
「あ、もう時間だ、家におやつがあるんです。それに新喜劇も始まっちゃうし」
「ミサちゃんに取り憑いてもいいですか」
「ど、どういう意味です」
「私、この豆腐屋の角から離れられないみたいなんです。地縛霊ってヤツですかねぇ」
「そうなんですか、私、急いでますんで。じゃぁこの辺で」
「ちょっと待って。ミサちゃん」
「はあ、まだナニか用ですか、ってかナニ、ミサって、もうウザいんですケド」
「お願いです。佐和子が心配なんです、ちょっとだけでいいですから、とりつかせてください」
「え、えぇ〜」
「お願いです。佐和子の無事が確認できれば成仏できますから。…きっと、ネ、ネ」
「、じゃぁ、本当にチョットだけですよ」
そんなことで結局、田中さんは私に取り憑いた。そして、
今、私の方が田中さんよりも年上になってしまった。次長の片岡、
「美里くん、今日の会議用書類のコピー、全部終わってる?」
私はコピーした書類を片岡次長に手渡す最中、後ろの田中さん、
「あ、アソコのデスクのヒト、佐和子かもしれませんヨ。ミサさん、早速行ってみましょう」
「そんな訳ないでしょう。佐和子さんも歳を取っているんですから」
片岡次長、
「ミサトくん、植田美里くん、最近誰と喋っているんだ。大丈夫か、仕事に支障がなければ別に構わないのだが」
「、すみません」
0夏になれば、テレビ番組などで怖い話がたくさん放送されます。その中に怖い幽霊がたくさん出てきます。ですが私にとりついている幽霊は怖い幽霊ではなくただの幽霊です。名前は田中さんといいました。
田中さんはとても気が弱く、人に強くものを言えない質で、誰に取りつこうか迷っていたところ、学校の帰りに豆腐屋の店先で油揚げを作っているところをずっと飽かず眺めていた私に、ようやく目星をつけ、声をかけたそうです。後で訊けば百八回目での成功だったそうです。
私に話しかけてきた当初、そんなことはオクビにも出さず、学校の帰り道の間抜けな道草少女だと思い込んで声をかけたそうです。
ということは、百八回目でやっと成功をした田中さんの言うことにも分があるとすれば、当時の私はやはり間抜けな少女だったのかもしれません。
田中さんは生前、佐和子さんという女性と結婚して幸せな毎日を送っていたそうです。田中さんは朝の通勤途中、私が道草を食っていた豆腐屋の角で不慮の事故で亡くなったそうです。原因は私がいくら聞いても恥ずかしがって話してくれません。元奥さん、いや奥さんの佐和子さんをずっと豆腐屋の角で待っていたらしいです。自分が死んだとも気づかずに。そこで私に尋ねたらしいのです。
「もしもし、君には私が見えますか」
「えェ、見えますよ、それがどうしたのですか」
「いや、ドウも他のヒトは私に気づいてくれなくて困っていたところなんです」
背広姿の田中さんは半透明で、向こう側の豆腐屋主人の仕事ぶりが良く見えました。
「透けていますよ」
「何がですか」
「だからあなたの…エェト、名前は」
「田中進一といいます」
「田中さんの身体、透けていますよ」
「どういうことでしょう」
「私が勝手に思うのですが、田中さん、幽霊なんじゃありませんか」
「死んでいるということですか」
「たしか、一年前くらいにこの豆腐屋の角で事故死をした人がいました。豆腐の角じゃなく豆腐屋の角で頭をぶつけて死んだ間抜けなサラリーマンがいたと噂になりました」
「今日は何日ですか」
「3月10日です」
「そうですか、やっぱり」
「ハイ今日は確かに3月10日です。何か話。かみ合ってませんね」
「今年は何年ですか」
「1997年です」
「え、1996年じゃないのですか」
「はい、今日は1997年の3月10日です」
「佐和子は…ええと私の妻を知りませんか」
「知りません」
「そんな冷たくしないでください」
「私、田中さんが幽霊だからって怖くありませんからね」
「この際、私が幽霊だということは少し横へ置いておいて、きちんと物事を整理しながら話をしましょう。君、名前は?」
「ミサトです」
「ミサトちゃんは私が見える。だけれど、他の人は私が見えない。声も聞こえない」
「ハイ」
「去年の今、ココで死んだ人がいる」
「エェ」
「思い出したぞ、僕は自転車で転んだんだ。こ、コノ豆腐屋の角を曲がったところで。転んだ拍子に運悪く、いや違う」
実は私、田中さんに少し飽きてきていました。
「帰っていいですか」
「チョット待った、こ、転んだ時、いや転んだ場所に岩が、」
「、」
「岩じゃなく、やっぱり運悪く地面に頭をぶつけた。ぶつけたどころが悪く」
「そう見たいですね」
「どういう意味かな?」
「すみません、どうぞ話を先に進めてください」
「いやァ、私の勝手な想像ですがね」
「嘘つき」
「でも私は佐和子を待っている。イヤ佐和子が家で私を待っている」
「誰です佐和子って」
「私の妻です。去年結婚したばかりです。去年といっても1995年の話ですが」
「一昨年になりますね」
「今日はその結婚一周年記念日で帰りに指輪を買って帰ろうと思って浮き足立って家を出た記憶があります」
「去年のことですよね。それに私、田中さんの話に興味ありませんから、帰っていいですか」
「ま、待ってください。今、私と会話できるのがミサトちゃんだけなんだから。今度、何時、私が見えるヒトと出会えるか分からないし」
「じゃあ、明日また会いましょう。学校の通学路ですから、それに私、豆腐屋主人のあの軽やかな仕事を眺めるのが好きですから、何時でもいます。いつでも声かけてください」
「今日は急いでいるの?ミサトちゃん」
「気安くヒトの名前を呼び捨てにしないでください」
「じゃあ、なんて呼べばいいのですか」
「すいません。初めて会ったヒトには気をつけなさいと母に言われていますから。別に田中さんだけを怪しんでいるわけじゃ…」
「その目つきは十分怪しんでいる目つきですよ」
「バレました」
「バレバレです」
「ふふふ」
「フフフ、じゃないですよ、…植田美里ちゃん」
「えっ、な何で私の名字知っているんですか」
「名札、つけているじゃないですか」
「ビックリした」
「ハハハ」
「お互い様ですね」
「こんなコトをする為にミサトちゃんと会話をしているんじゃないんだ」
「私じゃなかったら警察呼ばれていますよ」
「警察にも見えるヒトと見えないヒトがでて混乱するだけです」
「、」
「佐和子は元気にしていますかねえ」
「知りません」
「もうそれだけが心残りで」
「もしかしたら、佐和子さんに会ったら成仏できるかもしれませんね」
「僕もそんな気がします」
「成仏のヒントが見つかってよかったですね」
「会わせてもらえませんか」
「えっ」
「だから、佐和子に会わせてもらえませんか」
「それは、ちょっと」
「一生のお願いです」
「田中さんの一生はもう終わっているでしょう」
「…」
「チョット面白くありません。今の」
「面白くありません」
「…ネェ、ミサちゃん」
「馴れ馴れしくしないで下さい。気持ち悪い」
「、」
「佐和子さん、もう新しいヒト見つけて再婚して幸せに暮らしているかも知れませんよ」
「そんな」
「ありえますよ」
「私、どうしたら」
「あ、もう時間だ、家におやつがあるんです。それに新喜劇も始まっちゃうし」
「ミサちゃんに取り憑いてもいいですか」
「ど、どういう意味です」
「私、この豆腐屋の角から離れられないみたいなんです。地縛霊ってヤツですかねぇ」
「そうなんですか、私、急いでますんで。じゃぁこの辺で」
「ちょっと待って。ミサちゃん」
「はあ、まだナニか用ですか、ってかナニ、ミサって、もうウザいんですケド」
「お願いです。佐和子が心配なんです、ちょっとだけでいいですから、とりつかせてください」
「え、えぇ〜」
「お願いです。佐和子の無事が確認できれば成仏できますから。…きっと、ネ、ネ」
「、じゃぁ、本当にチョットだけですよ」
そんなことで結局、田中さんは私に取り憑いた。そして、
今、私の方が田中さんよりも年上になってしまった。次長の片岡、
「美里くん、今日の会議用書類のコピー、全部終わってる?」
私はコピーした書類を片岡次長に手渡す最中、後ろの田中さん、
「あ、アソコのデスクのヒト、佐和子かもしれませんヨ。ミサさん、早速行ってみましょう」
「そんな訳ないでしょう。佐和子さんも歳を取っているんですから」
片岡次長、
「ミサトくん、植田美里くん、最近誰と喋っているんだ。大丈夫か、仕事に支障がなければ別に構わないのだが」
「、すみません」