オジャケバサエルの花

作家: Kyoshi Tokitsu
作家(かな):

オジャケバサエルの花

更新日: 2023/06/02 21:46
SF

本編


 イヤ、突然引っ張り込んで申し訳ございませんな。どうぞ、おかけになってください。まだ少し夏の暑さが残ってますな。アイス珈琲でよろしいですかな。ハア、ミルクとシロップはどうなさいます? ハア、ブラックでお飲みになる。わかりました。あと、そうですな、何か甘味でもつまみながらにしましょう。ご安心を。私が引っ張り込んできたんですから、払いは私が持ちますので。何がお好きですかな。フム、おすすめですか? 私はこの店ではティラミスが一等だと思いますな。それでいいと? 分かりました。では注文してしまいましょう。
 すみません。アイス珈琲を二つとね、あ、一つはブラックで、もう一つはミルクとシロップもお願いしますよ。それとティラミスを二つ。ハイ、以上で。
 じきに珈琲が来ると思いますがね、まず、確かめさせてください。貴方、本当にあすこに何も見えてなかったんですか? いや、貴方、ベンチに座って空を眺めていらしたじゃありませんか。ジッと空の一点を。何を見てたんです? 何もって……。本当に何も見えてなかったんですか? フム、フム。なるほど。じゃあ、本当に貴方はただボーっとしていらしただけなんですね……。そうですか……。イヤ、お気になさらず、私が勝手に思い違いをしていただけのようですから。ハハハ。イヤ、しかしね、それでも後悔はしてないんですよ。貴方をこうして喫茶店にお連れしたのを。ウム、これも何かのご縁、少し話を聞いてはいただけませんかな。

 オット、もう運ばれてきましたよ。どうです、この店はなかなか気が利いていましょう? ありがとう。こっちがブラック? あ、貴方のだ。どうぞ。で、こっちがシロップ入りね。ありがとう。ささ、ここのティラミスは絶品ですよ。少し小ぶりですがね。どうぞお召し上がりになってください。

 エエト、なんでしたっけ。あ、そうそう。お話と言うのは……。あの、お断りしておきますがどうか私の話をお終いまで聞いてしまってください。決して私は精神異常者だとか、そういう類ではありませんから。どうかお終いまで聞いていただきたい。ご承知くださる。ありがとうございます。
 と言いましても、さてどこからお話ししたものか……。実はあなたが先程偶然に見つめていらしたあの空中には「オジャケバサエルの花」と言うのがあるんですよ。そら! 顔をしかめなすった! ハハハ。冗談ですがね。マア、致し方ありませんな。フム、フム。そうですな、それは至極もっともなご質問。「オジャケバサエルの花」とは何であるのか。実はこれは私にもよく分かっていないのです。ただ、空中から逆さまに巨大な蓮のような花が咲いているんですよ。薄桃色の、恐らくは離弁花でしょうな。それが萼(がく)から上の部分だけが宙づりになっているんですよ。晴天の青にも、曇天の灰にも、夜の漆黒にもそれは見事に映えていましてね。ああ、貴方の目に映らないのがもどかしい。ナニ? 大きさですか。そうですな。何せ巨大で……。直径にして百メートルはありましょうか。
 奇妙なことに、それがある日突然、現れたのですよ! イヤ、正確には急に私の目に映るようになったのです。ウム、サテ? そうですなあ。ひと月ほど前からでしたでしょうか。エエ、そりゃあ最初は大いに驚きましたよ。突然空にあんなものが現れたんですから。ちょうど私はその時、銭湯の帰りだったんですが、お恥ずかしながら公衆の面前で狼狽えましたよ。アッハハ。しかし、私以外にはその花が見えていないということはすぐに知れました。周りは私に、まるで妙なものを見るような目を向けるんですから。平静を装うのに苦心しましたよ。もっとも、上手くごまかせたとは思ってませんがね。それからというもの、方々の知人にそれとなく聞きまわってみたのですが、これが誰にも見えていないんですよ。昼となく夜となく、私にしか見えない巨大な花が存在している。それも空中に! もちろん、多少の優越感はありましたがね、しかし、なんとも言い難い恐怖ですよ。エ? アア、「オジャケバサエル」、と言う名がなぜ私に分かったのか、ですか。サテ何故でしょうな。不思議なことにほとんど私の直感なんですよ。例えば、道で猫を見かけたとき。意識しないでもその動物の名前が「ネコ」だと分かるでしょう? そんな感覚なんです。エエ、エエ、そうです。不思議なもので。
 ですから、あなたがベンチに座って空を眺めていらっしゃるのをお見かけした時には、私はやっとのことで同志を見つけたと勘違いしてしまいました。その結果、古くからの馴染みの喫茶店に貴方を連れ込んだ、と、こういう訳なんですよ。何せあなたの目にもあの花が見えているとすれば、私は奇跡の友に巡り合ったことになりますからね。アハハ。どうですか。信じていただけますか。なんと! 信じてくださる。嗚呼、ありがとうございます。たとえ、この場しのぎのお言葉であったとしてもこれ程嬉しいことはありませんよ。イヤア、やはり貴方にお声をおかけしてよかった。
 
 あ、これは失礼しました。ついしゃべりすぎてしまいました。珈琲が薄くなってしまいましたかな。どうぞ、お召し上がりください。そうそう、ティラミスを口に入れるときは気を付けてくださいよ。むせますからな。どうです、美味いでしょう? それは良かった。ここはティラミスも美味いんですがカヌレも絶品なんですよ。オヤ、カヌレをご存じでない? それはいけません。ぜひともお召し上がりにならなければ。ハハハ。とはいえ、今日はティラミスだけにしておきましょう、お互い糖尿を患っちゃあ仕方ありませんからね。アッハハハハハ。
 そうだ。この次に貴方にカヌレを御馳走したい。どうでしょう、連絡先を教えてはいただけませんか? エエ、メイルで結構です。ありがとうございます。ぜひまた、貴方とは花についてお話しがしたい。どうかご迷惑でもありましょうが、その折にはよろしくお願いしますよ。ただで珈琲が飲めると思ってお付き合いください、もちろんカヌレも。ハハハ……。

 いやはや、お久しぶりですな。先に私の馬鹿げたお話にお付き合いいただいてからどのくらいになりますか。ああ、そうでしたか、もうひと月になりますか。早いものですな。光陰矢の如し。ハハハ。さあ、これが前回お話ししたカヌレですよ。どうです。面白い形をしていましょう? 小さいプディングのようだと? 鋭いですなあ。味もプディングに近いですがね、これは焼き菓子ですよ。まあ、一寸食べてご覧なさい。どうです? なかなか良い味をしていましょう? これだけの味のものを出す店はそうありませんよ。イヤイヤ、私は甘味に目がありませんもので。ハハハ、仕方のないものですな。

 さて、わざわざご足労いただいたのは他でもない。例の「オジャケバサエルの花」についてですよ。やはり、貴方の目には映りませんか? ウム、そうですか、残念です。最近ますます美しくなってまいりましてね、新月の夜にはうっすらと光を放つようになりまして。夜空に浮かぶ大きな薄桃色の花弁が儚く発光しているその様を思い浮かべてみてください。どうです? 今、貴方の想像したよりも数段美しいですよ、あれは。なんと言いますか、浮世離れしているんですな。エ? 香り、ですか。そうですなあ。ウム、仄かな瑞瑞しい香りで、そういえば何かに似ている……。そうそう、水蜜桃ですよ。あの香りに似ています。と言っても水蜜桃よりもよっぽど淡いですがね。それがまたなんとも……。
 イエ、今日貴方にお話ししたいのは花の美しさについてでは無いのですよ。あれの美しさは一度見てみない事にはどうにも仕方ありませんよ。
オット、失礼な物言いでした、謝ります。どうか今日もしばらくお付き合いください。ご承知くださる。ありがとうございます。では早速本題に入りましょう。実は私もあれから花について、いくらか調べましてね、と言ってもそれとなく方々の人に尋ねてみたというだけですが。ですから時には随分と妙な顔をされることも多ございましたよ。アッハハハ……。一度なんか異常者だってんで交番に引っ張られるところでした。まあ、こんな髭面の中年が妙なことを尋ねるのですから無理もありませんがね。ハハハ。しかしね、そのおかげで得るものもございました。と言うのは、居たんですよ! 同志が! 今では私も含めて四人になりましたよ。もう最初の一人と出会った時の感動と言ったらありませんでした。お互いにあれが見えると分かった時には思わず手を取り合って喜んだものです。と、その時にふと頭に浮かんだのが、他でもない、貴方の事ですよ。すぐにこの感動を分かち合いたかったんですがね、一人見つかったんですから他に居てもおかしいことは無かろうというのでその同志と話しましてね、二人それぞれで調べてみることにしたんですよ。そうしてお互いが一人ずつ同志と巡り会えたというわけで。定期的に集会を開こうということになっているんです。イヤア、実に嬉しいことです! 感動ですよ! 
 失礼、少し興奮してしまいました。同志四人で集まって話してみましたところ、少しずつですがあの花について分かってきたことがあるんですよ。たまたま同志の中に帝国大学を主席で卒業したという学のある者がいましてね、彼を中心にして研究しているのです。
まず、私が「オジャケバサエル」と呼んでいるあの花の名についてですが、概ね合っていたようです。何ですか? ハア、「概ね」と言うところが気がかりだと。アッハハハ。イヤイヤ、敢えてそう言ってみたんですよ。貴方ならきっとそう尋ねてくださるだろうと思いましてね。アハハ、あまり良い気はしないでしょうが、どうかご勘弁ください。私は貴方が好きなのですから。どうかお許しを。
 それで「概ね」と言う点についてですが、どうもあの花の名前については我々日本人の舌では発音が難しいようなのです。それで個人差が生まれたのでしょう。ある同志はあれを「オヤケバサエル」と呼んでおりましたし、他にも「オヤークバザル」、「オジャバザル」と四人が四人ともわずかに異なる名前で呼んでおりました。しかし、それらの名を聞いても私は、いや、四人とも何の違和感も覚えませんでした。確かにそんな風にも思われたのです。不思議なものですよ。やはり、私一人が気が違ったのではなかったということがはっきりと証明されたということですからね。アッハハハ。
 そうして次に、どうして我々にはその花が見えるのか、また、何故見えないという者の方が圧倒的多数なのかと言うことについて議論しました。そして一つの仮説を立てたのですよ。つまり、あれは高次元の多様体であろうというのです。即ち「オジャケバサエルの花」は非エウクレイデス的幾何学体であり、局所的にはエウクレイデス的幾何学体と捉えられる。そしてその局所的な存在を観測できる存在というのが我々四人であろうというのですよ。我々の視点のみが何らかの影響で局所的に可測となっているからこそ見えるという訳ですな。
 お分かりでない? ハハハ。実は私もなんですよ。今のは例の学のある同志の受け売りですよ。私も何のことだかさっぱり分かりません。なんでも彼は大学で幾何学を専攻していたようでその見地からの仮説だそうです。しかし、マア、おこがましいようですがね、早く言うと、花が見えるのは我々の何か先天的な能力のようなものの為だろうという結論に至りまして。いや、決して自慢のためにお話ししたのではありませんから、どうかご機嫌を損ねないでいただきたい。私はただ貴方と「オジャケバサエルの花」について語りたいのです。妙なもので同志四人で議論しているよりも貴方とこうしてお話ししている方が私にはよほど愉快なのですよ。

 アア、申し訳ございません。また喋りすぎてしまいました。オヤ、カヌレが一つ余りましたな。どうぞ、お召し上がりください。

 お元気でしたか。三月ぶりとは。本当はもっとまめにお会いしたいのですが、どうもここのところ立て込んでおりましてね。エエ、無論「花」についての集会の為ですよ。なんと私が代表に選出されましてね。それからはめっきり忙しくなりました。そうそう、同志も随分増えましてね、確か今では十六人になりました。嬉しいものです。

 そうだ、飲み物は何になさいますか? ホウ、今日は紅茶になさる。結構ですな。では私もそれに倣いましょう。甘味は、今日は英国式にケーキといきましょう。オヤ、給仕さん、そこにいらしたんですか。では、注文はお分かりですか。アハハ。はい、よろしくお願いしますよ。

 そうそう、同志が増えまして。しかし、一寸おかしなことも出来てきまして。と言うのは「花」の見え方がどうも一様でないようなのですよ。つまり、同志の中でも花の見え方に差があるようなんです。エエ、エエ。不可解なことです。その違いというのは、かの美しい花がしおれて見えるという者が出てきまして。三人おりました。私の目には依然として妖艶に瑞々しく映っているのですがね。
フム、その者の見間違いではないかと。もちろんそうも考えました。しかしそう言う者が一人でないのがどうも気がかりでしてね。驚くべきことには、そのしおれた「花」の様子も三人それぞれが僅かに違った意見を言うのですよ。
 一人は花の色が薄れたと言いました、別の者は花弁に黒い斑点を認めました、そして虫食いの跡のようなものが見えると言った者も……。エエ、不思議なことです。無論、大多数の同志にはそんなものは見えていないようなのですが。それから、同志の内の依然として花の美しさが損なわれていないという者達の間でもその見え方について議論が始まりました。するとどうです! これも違っていたんですよ。私が見ている「オジャケバサエル」は薄桃色の蓮のような花で、その蕊は黄金色です。しかし「オヤークバザル」は真っ白な花弁で、「オジャバサスル」は同志達の見ている花の中でも一等小さいようでした。何でも桜のように小さい花がいくつも咲いているというではありませんか! これにはすっかり驚きました。みんな同じに見えていると思っていたものがこうまで違って見えていたなんて、そしてそれがこんなにも遅れて発覚するなんて。
 学のある同志が言うには我々局所的観測者はそれぞれ別な次元の多様体を見ているのだそうです。何でも「花」という存在は集合であり、その元と我々観測者の集合の元との間に何らかの写像関係、それも恐らくは全単射の関係があるそうなのです。どうです、お分かりになりますか? アア、そうですか。私にも分かりません。その同志も理論に確信は持てないと言って詳しい説明はしてくれず、今も研究に没頭しています。
 なんだか私にはいやな予感がするのです。あの「花」が一層不吉に感じ始めているのですよ。だから以前ほど空に目を向けられないのです。嗚呼、もしかするとあれは見えぬ方が安楽なのかもしれません。やはり不吉です。
 イヤ、今日の所はこれで失礼いたします。実はこの後に同志との集会が控えておりまして。エエ、何やらよくないことが起こりそうな気がいたします。

 珈琲を二つ! 失礼、もしかすると今日があなたとお話しする最後の日になるかもしれません故、早々にお話しをいたします。先日、そう一週間ほど前にあなたと別れた後、私は集会に参りました。花にはどうやらどの同志の目にも別な形で異変が生じているようでした。事実、今では「オジャケバサエル」の花弁も茶色く濁ってしまいました。水蜜桃のようだったあの香気も何か腐臭のようなものが混ざってきまして。そうです。私が外でマスクをしていたのもそのためなんですよ。それで、今日はその集会で起こったことをぜひともお話ししておこうと思ったのです。もしかするともう明日にはこの「花」のことを知っている人類は貴方一人にならないとも限らないのです。エエ、エエ。そうですね。少し落ち着いてお話しいたしましょう。

 フウ、先の集会で同志が三人、悶死をいたしました。私達の目の前で……。彼らはいずれもほかの同志に先立って花の異変を認めた者達でした。三人とも一時に苦しみ始めましてね。喉を掻きむしる者、体中が痛むと転げまわる者、ただうめき声をあげてくずれ落ちる者、とその容体は様々でしたが、彼らがその命の尽きる間際に口にしたことは同じでした。「花が枯れた」と。
 すぐに彼らを病院に運んで検査をしてみても原因は不明。ただ、彼らの背にはそれぞれ大きな痣が出来ておりました。彼らが見ていたという花そっくりの痣が……。この死んだ同志の中には、あの学のある同志も入っておりましたから、もう今となっては花の研究も行き詰まってしまいました。
 結局、花が何なのかは分からず仕舞いです。しかし、その後、残った同志で何とか話し合いを続けたところ、ある事実が分かってきました。我々の背には、揃って妙な痣が出来ているのです。ハイ、もちろん私とて例外ではありません。イエイエ、花の形はしておりません……。今のところは。しかし、その痣には共通点がありまして。同志たちの目に映った花、その欠損した、あるいは穢れた部分がそっくり痣となって背に浮かび上がるようです。そして花がすっかり枯れるころ、痣は花をそっくり映し出すのです……。今では、生き残っているのは私ともう一人の同志だけ。そして私ももう長くはないでしょう。何せ「オジャケバサエル」は枯れる間際です。路傍の、踏みつぶされて朽ち果てた牡丹のように醜くなってしまいました。その様子に比例して、私の背の花はいよいよその美しさを増している。嗚呼、もうじきです……。
 今日は貴方にお願いがあって参りました。明日、正午にこのメモにある住所を訪ねてきてくださいませんか。私のアパートです。きっとその時間には私の命は尽きていることでしょう。どうか警察に知らせてください。そして、お手を煩わせますが、アパートの方に迷惑はかけたくありませんので、なるがたけ内密に。そして、そう、私は肌脱ぎになっておりますから、よろしければ私の背中を御覧になってください。私の初めての理解者である貴方に「オジャケバサエルの花」をお見せしたい。どうか、よろしくお願いしますよ。
 
 その後、私たちは黙って珈琲を飲み干した。彼は住所の書かれたメモを残して「では、これで」と言い残すと、先に店を出てしまった。私はまだ、彼の言うことを全て信じることができないでいた。決して彼が狂人だと思うわけではないのだが、いや、そう思いたいのだがひょっとすると……。とにかく、明日、彼の家を訪ねることにしよう。不思議なことに恐怖は無かった。それどころか私は「オジャケバサエルの花」を見られるということに心を躍らせてさえいた。
 店を出た。当然彼の姿は無かった。私はしばらくの間メモを見つめていたが、やがてさっきまで一緒にいたあの男の言動への不信感が積もり始めた。やっぱり彼は異常者だったのではないだろうか。考えてみれば彼が私に声をかけたきっかけからしておかしいではないか。別に私以外にあの公園でぼんやりしている人間がいなかったわけでもない。それに冷静になってみると、話に出てきたような「花」がこの世に存在するはずがない。何のことは無い、非現実的、その一言で充分ではないか。結局、私は彼に騙されていたのだろう。彼は異常者でこそ無いものの、人をからかって面白がる変態的性質を持った男だったに違いない。ここまで来ると彼の言っていた「同志」なる者達が本当に存在していたのかさえ疑問だ。全てあの男の妄想か作り話だったと思う方が自然だ。
 私は肩を落とした。なんということもない日常。その中で私は心の底であの「オジャケバサエルの花」という超自然的存在を求めていたのかもしれない。

 私は一つ、息をついた。少し笑みがこぼれた。自嘲のこもった笑みであった。そして何気なく空を見上げると! 純白のユリに似た巨大な! 「ウヤルバセルの花」。
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