書きたい、書けない

作家: リコピン
作家(かな):

書きたい、書けない

更新日: 2023/06/02 21:46
その他

本編


「ハッピーエンドが書きたい」
俺は常々そう思っていた。
起こった問題は全て解決して、みんなの笑顔で舞台が終わる。 そんな物語を書きたかった。
だから俺は、たくさんの物語を書いた。たくさんの人生に寄り添った。ハッピーエンドは、書けなかった。
いくつもいくつも考えて、その度に主人公は不幸になって。俺には無理なのかなと思っても、諦められずにまた書いて……。
高校球児が3年間補欠のまま卒業したとき、俺は決意した。
「次で書けなかったら、もうやめよう」
俺はまた、物語を作り始めた。
「舞台は……そうだな……とある国」
この国は戦争中だ。相手は隣の国。主人公はこの国の兵隊で、故郷にはヒロインである幼なじみがいる。
物語が始まると、主人公とヒロインは仲睦まじく暮らしている。
二人の仲がどんどん深まっていくのと対照的に、隣の国との関係はどんどん悪くなっていく。
やがて戦争になると、主人公は兵隊として戦場に行かなければならなくなる。
泣きだすヒロインに主人公は必ず戻ると約束して、戦場へ向かう。
戦争が激しさをましてく中、主人公は英雄とも呼ばれるような活躍をみせる。
間に戦場での仲間との交流とか、ヒロインはどうしてたかとかも書きたいなぁ。
とりあえず、主人公の活躍もあって戦争は終わり、主人公は約束通り国に帰ってくる。
「あれ?これこのままいけばハッピーエンドになるんじゃないか?」
主人公は英雄として盛大に迎えられ、ヒロインとも感動の再開。二人はそのままゴールインして……
うん、ハッピーエンドだ。あとは間の話がしっかりしてくれば……
そう思った瞬間、俺の頭の中に銃声が鳴り響いた。
撃ったのは隣国の回し者。弾丸は主人公ではなくヒロインにあたってしまう。
崩れるように倒れるヒロイン、衝撃で動けない主人公。ヒロインは主人公に愛をささやいて絶命。主人公の泣き叫ぶ声が、急に降り出した雨の音とともに響き渡った。
「もう、やめよう」
「やっぱり俺にはハッピーエンドを書くなんて無理だったんだよ」
「そうだ。俺には才能がなかったんだ。」
「そういうのを書く才能がなかったんだよ。」
そんなことを考えた帰り道。頭上ではちょうど月が雲に隠れるところだった。
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