手にするものは

作家: ながる
作家(かな):

手にするものは

更新日: 2023/08/15 09:54
SF

本編


 『新設!6sense部隊!』

 掲示板の前に人だかりができていた。
 『求む次世代のヒーロー』などと銘打って、第六感を磨き上げ、来たる宇宙戦争時代に備えようというのだ。
 電子掲示板に印刷した紙が雑めにセロテープで貼り付けられているので、みな一瞬はいたずらかと思うのだが、面接日時と一緒に示された現在の1.5倍の給料に、思わず足を止めて読みふけってしまう。故の人だかりだった。

「よぅ。おまえさんも興味ありあり?」

 肩にのしかかる重みをうっとおしく思いながらも、されるがままにしておく。

「給料は、魅力」
「だよなー」
「受けるのか?」
「まあ、ダメもとで? 上の子がさ、医者か宇宙飛行士《パイロット》かで悩んでるのよ。どっちにしても、かかるだろぅ?」

 同期の親指と人差し指で作られる丸が表すものは、どの時代でも必要不可欠なものだ。

「お前も受けるつもりなら、枠はひとつ埋まったも同然かなぁ。勘、いいもんな」
「どうかな」

 宇宙軍、などと言いながら、一度も交戦したことはなく、誰と戦うのかも定かではない。訓練とスペースデブリの回収ばかりで、地上では「|Janitor《清掃員》」などと揶揄されているのに、よく予算がつくものだと感心する。
 まあ、下っ端は給料をもらえるうちは、粛々と仕事をこなすしかないのだろうけど。

 ★

 異動のために段ボール箱を抱えて階段を下りていると、すれ違った奴が振り返った。

「あれ? 異動か?」
「そうなんだ」
「|6sense《上》じゃなくて|事務《下》に?」
「うん」

 新しいデザインのツナギで、同期は少し同情の表情を見せた。すぐに笑顔になったけれど。

「お前なら絶対受かると思って、一緒に仕事ができると思ったんだけどなぁ」
「下からもだいぶ抜けたみたいだからな。まあ、頑張れよ。縁の下で支えるからさ」

 新設部隊への倍率はかなり高かったようだ。それで残れたのだから、彼も成績はいい方だったのだろう。同期会のたびに訓練の様子を面白おかしく聞かされて、能力の開花に目を見張った。

 ★

 数年後。唐突に戦争は始まった。
 突然姿を現した隕石型の宇宙船に、最初我々は翻弄されっぱなしだった。それでも、回を重ねるごとに次の船の出現位置や攻撃位置の推定制度が上がっていく。6sense部隊の活躍は目覚ましく、いくつかの船を撃退することに成功した。
 が。
 束の間の勝利に酔いしれる暇もなく、次の攻撃が始まる。
 圧倒的な数の暴力。
 勘のいい彼らなら、もしかしたら気付いていたのだろうか。
 いや。どうだろう。
 撃墜の報告と悲鳴が飛び交う部屋の中で、まだ生きているモニターを睨みつける。
 本当に勘の良い人間は、あの面接に合格しないようふるまった。
 生き残りたいものは一線を退き、金を残したいものは覚悟を持って入隊した。
 侵略者の目的が虐殺ではないのなら、生き残る目はある。
 さあ、ここからが本番だ。
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