カゴの鳥

作家: 紅いココア
作家(かな):

カゴの鳥

更新日: 2023/06/02 21:46
詩、童話

本編


カゴの鳥は幸せでした
何不自由ない生活を送れたから
手入れをされ、餌を与えられる生活が
何者にも襲われないカゴの中での生活が幸せでした
けれど幸せは続きませんでした
外からカゴの鳥を見た人々が口々に言うのです
「鳥を閉じ込めては可愛そうだ」と
飼い主は始め、鳥を大切にしている事を訪れる人に丁寧に伝えていました
けれど、日を増すごとに「鳥が可愛そうだ」と伝えに来る人の数は増えてゆきました
伝えに来るたびに何度も同じ説明を繰り返します
ですが数日もすれば同じ人々が、また別の人を連れてやって来るのでした
そんな毎日が繰り返されたせいで、飼い主は人々の意見が正しいのでは?と思うようになってしまいました
やがて、飼い主は飼っていた鳥を野に放ちました
「窮屈なカゴに閉じ込めてすまなかった」と謝りながら、鳥が飛び立って行くのを見つめます
ほんの少し、寂しさを感じながらも手を振ります
それを見ていた人々は、鳥に対して伝えます
これでお前は自由なんだぞと、満足げな表情を浮かべながら
人々は、誰もが良い事をしたと思っていましたから幸せでした
さてさて、困ったのは鳥の方です
何しろ、いきなり外へと放り出されたのですからたまりません
人に例えるなら、準備も無しに家を追い出されたのですから混乱するのも当然です
鳥は困惑しながら、彼の周りをぐるぐる飛び回ります
親であった筈の存在に、助けを求めるように
けれど、誰も助けてはくれません
ですが、それは当たり前です。鳥の言葉は人に伝わらないのですから
やがて鳥は、誰も助けてくれないんだと理解し危険なカゴの外へと旅立ちました
けれど、今までカゴの中で過ごしてきた鳥にとって外の世界はとても恐ろしい場所です
食べ物を見つける手段も知らず、天敵が何なのかも知らないのですから
そんな状態で、この鳥が長生き出来る筈などありませんでした
空へと放たれて数日と経たずに、空腹で倒れそうな所を何者かに襲撃されてしまいます。
その姿は、鳥の何倍も大きく鋭い爪を持っている生き物でした
瞬間的に鳥は悟りました、もう助からないと
翼をもがれ自らの命の灯火が消えゆく中で、鳥は人々を恨みました
このような危険あふれる自然に、何も教えずに空へと放った飼い主を
幸せだった日々を、壊していった人々を
カゴの鳥に生まれてしまった、自分の運命を
意識が消えるその時まで、恨み続けたのでした

けれど人々は誰も、飼い主すらもこの事実を知りません
彼の鳥が自由に飛び回っていると信じてやまず
鳥から感謝されてると信じているのでした
それこそ恨まれているなど、少しも思わずに
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