ブッシュ・ド・ノエルの思い出

作家: 夕月 檸檬
作家(かな): ゆづきれもん

ブッシュ・ド・ノエルの思い出

更新日: 2023/06/02 21:46
エッセイ、ノンフィクション

本編


【父が買ってくれたクリスマスケーキ】

子ども時代、毎年、父が有名和菓子店のクリスマスケーキを買ってくれていた。
父の勤務先に、一般価格よりも安く買える注文用のリーフレットが届いていたのだ。

小学生時代のこと。
父が木の枝のようなケーキの写真を指差して、キラキラした目で
「このケーキ、いいだろう? 今年から作る新しいやつなんだ」
と言った。

父の様子から、新しいケーキを気に入り、
〔娘にちょっと珍しいケーキを買ってやれる!〕
と、喜び勇(いさ)んでリーフレットを持ち帰ってきたのだと感じた。

珍しさに惹(ひ)かれ、
「それがいい!」
と答えた。

それ以来、毎年、自動的にブッシュ・ド・ノエルを注文された。
父の脳に「自分が薦(すす)めて娘が気に入ったケーキ」という情報が書き込まれ、書き換えられる機会がなかった。

途中で
〔今年は白いクリームのケーキがいいな……〕
と思うことがあっても、父の思いをわざわざ打ち砕く必要はないような気がして、黙っていた。


――という話をブログに書いた翌年、コンビニで一人用の小さなブッシュ・ド・ノエルが販売されていて、驚いた。
今年・2020年も複数のコンビニで販売されているとの情報を得た。
驚いた年から、毎年販売されているようだ。

亡き父との思い出のケーキが定番化したこと、仏壇に供えて話してみようか。
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