星のオクリモノ

作家: はちゃこ
作家(かな): はちゃこ

星のオクリモノ

更新日: 2023/06/02 21:46
詩、童話

本編


あるところに一人の男がいた。
男は世界有数の凶悪犯として恐れられていた。
長年非業の限りを尽くしてきたが、とうとう捕まり、
「島流し」ならぬ「星流し」の刑となった。

「星流し」とは、遥か彼方の星への流刑。

一人用の宇宙船に乗せるため、元の記憶はそのままに、
赤ん坊の姿に変えられ眠らされる。
そして長い時間をかけて、見知らぬ星に流れ着くのを耐えるのだ。

男が送られた星の名は…地球。

川上から流れてくる宇宙船を見つけたのは、近くに住む老婆だった。
一抱えもある球体の…桃のような宇宙船。
自宅に持ち帰り、老爺とこじ開けたところ、中には赤ん坊がいた。
二人は、これを「桃太郎」と名付け、大切に育てた。

すくすくと立派に成長した桃太郎。
昔の星の記憶など、とうに薄れていた。

そのころ、人里を荒らす鬼の話を聞きつけた、桃太郎。
早速、鬼退治に行くことを決めた。
お供には、犬、猿、雉と呼ばれる、3人の用心棒も従えて。

鬼ヶ島に着くと、そこには鬼がいた。
いや、正確には「桃太郎と同郷の宇宙人」たちがいた。
なるほど、彼らもまた、星流しになった犯罪者たちだったのだ。
彼ら宇宙人は、幼少期こそ人間に近いなりをしているが、
成長すると頭部に角が生え、体も倍以上大きくなる。
人に擬態することが困難になった鬼たちは、
次第にこの島に身を寄せ合うようになったのだという。

たまに人里へ行き、少し畑の野菜などを拝借することもあるが、
荒らすなんてとんでもない。
ホラを吹いたやつがいたんだろう、と鬼たちは笑った。
つられて桃太郎も笑った。
鬼…と呼ばれてきた、宇宙人たちは、桃太郎を歓迎した。
星流し同士、一緒にここで暮らさないか、と。
しかし、桃太郎は優しい老夫婦のことが頭をよぎり、
即答ができなかった。
そんな桃太郎を咎めることもせず、鬼たちは宴会を開いてくれた。
酒を飲んだ桃太郎は、すっかりいい気分で眠ってしまった。

お供の三人がいないことに気が付いたのは、翌朝のことだった。
怖気づいて先に帰ってしまったんだろうと、鬼たちは笑っていた。
が、破り捨てられた衣服、血痕、そしてまだ新しい骨…
島の裏でそれらを見つけた桃太郎は、
酔いつぶれている間に何が起きたのかを悟った。

その時、背後から鬼たちの会話が聞こえてきた。

鬼の秘密を知った人間を、この島から出すわけにはいかない。
そうだ、ついでに桃太郎を育てた老夫婦も殺してしまおう。

そんな会話を聞いて、桃太郎は怒りに震えていたが、
一方で、新たな力が湧いてくるのを感じていた。

「自分には、護るべきものがある」

あの星で一人で生きていた頃には、抱いたことのない感情だった。
桃太郎の懐には、老婆が持たせてくれたきび団子がひとつ。
迷わず、きび団子…もとい手榴弾のピンを引き抜いた。
爆音とともに、鬼ヶ島ひとつ、きび団子の威力で吹き飛んだ。
桃太郎も死んでしまったが、それでも彼は満足だった。
もともと凶悪犯として生きてきた過去。
人を殺めることの罪悪感など、持ち合わせてはいない。
だが、自分をここまで導いてくれたあの心優しい老夫婦だけは、
命を懸けてでも護りたかった。

桃太郎が鬼退治に旅立った数日後、
鬼ヶ島の方角から、閃光と爆音が届いた。
それを聞いた老婆は、にんまりと笑みを浮かべた。

あぁ、桃太郎はあいつらを、うまく仕留めたようですよ。
まったく…星流しの連中ときたら、
せっかく更生プログラムを使って矯正してやっても、
またすぐ悪事に手を染めてしまう。
今まで何人もの桃太郎を育ててきたけれど
…みんな鬼になってしまった。
その点、今回の桃太郎は、いい出来でしたね、お爺さん。

老婆が東の空を見上げると、ちょうど一筋の雲が流れていた。
また新しい宇宙船が、地球に届いたようだ。
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