魔法掃除少女まりん

作家: 井野ウエ
作家(かな):

魔法掃除少女まりん

更新日: 2023/06/02 21:46
異世界ファンタジー

本編


 そのときは突然やってきた。わたしが家の前で大好きな掃除をしていたとき、突然話しかけてきたの。

「まりんちゃん! 僕たちの世界を救ってほしい!」
「ひゃあああ」

 目の前を見ると鳩が喋ってたの。とてもとてもビックリしたわ。だって鳩は喋らないじゃない。

「驚かせてごめんね! でも僕たちの住む第五世界がピンチなんだ」
「第五世界?」
「順を追って説明するね。この世界は五つの層でわかれていて、君たちが住んでいるここは第二世界。僕たちは第五世界から助けを求めてやってきたのさ。で、僕たちの第五世界は今邪悪な第三世界と戦争中で、滅亡の危機なんだ! だからまりんちゃんに助けてもらいたくて」
「そうなんだ……。でもわたし小学六年生よ。なにもできないわ」
「そんなことないよ! 僕が探していたのはきれい好きの子なんだ。なぜかというと、僕たちの戦いのなかで重要な資源となるのは第二世界、つまり君たちの住む世界で生成されるゴミなんだ。だから僕らや敵である第三世界の奴らは定期的に第二世界にワープしゴミを回収している。君のような汚れのないきれい好きな少女に、ゴミを集めてもらいつつ第二世界にワープしてくる第三世界の奴らを退治してほしいんだ。つまり、魔法掃除少女になってほしいんだ!」
「魔法少女!? なりたいなあ。でも……お母さんに聞かないと」
「だめ! そんなことを言っても信じないだろうし、お母さんには僕の姿は見えないんだ。汚れのない子にしか僕の存在は認識できない」
「そうなんだ、わかったよ。なんだか大変そうなことが起こっているのね。協力する!」
「ありがとう! 僕の名前はピサロ。しばらくまりんちゃんのお供としてそばにいるから、よろしくね」
「うん! がんばろう!」

 そんなこんなで第五世界を救うことになっちゃったわたし。この後どうなっちゃうの。



 次の日、わたしは鳩のピサロから魔法のほうきとポーチを貰ったの。ほうきで掃除してポーチにいれることでゴミが第五世界にワープするんだって。不思議だね。

「まりんちゃん! ペッグスが現れたよ!」
「ペッグスって?」
「第三世界を治めるアミーゴ大王直属の戦闘部隊だ! きっとゴミを集めにきたんだね。退治しにいこう!」
「え、でもわたし戦えないよ」
「大丈夫! そのほうきがあれば魔法が使えるから! さあ、ほうきにまたいでみて」

 わたしはピサロの言うとおりにしてみた。するとビックリ! 宙に浮いたの! テレビで見てた魔法少女になれたんだわ。とっても嬉しかった。わたしは住んでいる町を見下ろしながらペッグスのもとへ向かった。

「よしよし、これでまた質のいい武器が造れるっと……な、なんだお前ら!?」
「ペッグス! また第二世界を荒らしやがって! いい加減にしろ!」
「ピサロ!? なに言ってるんだ! ゴミを集めて悪用してるのはお前らじゃねえか!」

 ペッグスは紫の体に角と羽が生えた、ザ・悪魔のような見た目だったわ。一目で邪悪な存在とわかる。

「まりんちゃん! ペッグスを退治しなきゃ! ほうきを振ってくるりんピームを出して!」
「わかった! ピロリンパロリン天まで届け、くるりんビーム!」
「うぎゃあああああああ! くそ! 俺らは五つの世界を守……」

 ペッグスは粉々になって消えていった。これで一件落着ね。でも少し気になることがあったの。

「ねえピサロ、さっきペッグスが、あなたがゴミを集めて悪用してるって言ってたけど……」
「ああそれね! あんなのうそだよ。第三世界の奴らは邪悪だから自分たちのためなら平気で人を騙すのさ。まりんちゃん、あいつらが何を言おうが耳を貸しちゃだめだよ! あんな見た目の奴らが良い奴なわけないじゃない」
「確かにそうね! あなたの住む第五世界を守れるしわたしの第二世界もゴミがなくなってきれいになるし、気分がいいわ!」

「そうだね! じゃ、早速掃除しよっか!」
「うん!」



 次々と第二世界にゴミを集めに来るペッグス達を退治するたびに、わたしは彼らの叫びに耳を傾けるようになった。

「お前は騙されてるんだ! うわあああ!」
「その鳩の言うことをきくな! うわあああ!」
「お前の世界が危な……うわあああ!」

 わたしがそのことをピサロに尋ねる度に、ピサロはペッグスが嘘をついているの一点張り。本当に信じていいのか、少しずつ不安になっていったわ。

「ねえピサロ、第五世界ってどういうところなの?」
「第五世界は五つの世界で一番の楽園といわれていて、働くことや通貨という概念が存在せず欲しい物が全て手に入る世界だよ。僕はまりんちゃんが住む第二世界にいるときは鳩の姿をしているけれども、向こうでは君たちと同じ人の形をしているんだ」
「へぇそうなんだ。なんで鳩に|変化《へんげ》しているの?」
「ワープするときはルールとして、その世界を支配している種族と区別がつくようにしなきゃダメなんだ。僕が本来の姿のまま第二世界に来てしまうと君たちと見分けがつかなくなってしまうからね。だから別になんだってよかったんだけど鳩に変化してるってわけだよ」
「じゃあペッグスも本当はあの悪魔のような姿じゃないってこと?」
「ま、まぁそうなるね。でもあれだよ。神様がそれぞれの世界の善の積み重ね具合によって何に変化できるか決めてるんだ。第三世界の奴らは善を積んでいないからあんな醜い姿にしか変化できないってことだよ」
「でもさっきピサロは『別になんだってよかった』て言ったよね。変化する姿を神様が決めてるんだとしたらなんだか言っていることがおかしくない?」
「まぁいいじゃないか! まだ六年生なんだから難しいことは考えないの! さ、ゴミを集めて第五世界へじゃんじゃん送ろう」

 わたしは子供ながらにピサロがなにかしらの嘘をついてるんじゃないかと考えはじめたわ。



 その日ピサロは第五世界で大事な会議があると言って不在だったの。わたしはいつものようにゴミを回収しにくるペッグスに話を聞いてみることにしたわ。

「ひいいいい、また魔法掃除少女だぁぁ」
「ちょっとまって! 今日は倒しにきたんじゃないわ」
「嘘つけ! そうやって油断させてとっちめる魂胆だろ! ピサロに似てきたな!」
「そのことよ」
「ん?」
「あなたたちの第三世界とピサロの住む第五世界について聞かせて。なにが本当かわからなくなってきたの」

 ペッグスはゆっくりと口を開きはじめた。

「信じていいんだな。
俺たちは、五世界統一計画を阻止すべく第五世界と戦ったが負けたんだ」
「五世界統一計画?」
「第五世界の奴らはもともと通貨制度がなく、欲しいものは力ずくで全て奪うという考えが浸透しているんだ。五つの世界の人のなかで最も邪悪な存在と言える。今までは自分たちの世界のなかで奪い合ってたが、ここ数年は一致団結して他の世界のものを奪うようになっていった。そしてその行為が肥大していき五世界統一計画へと発展していった。五つの世界のすべてを自分たちのものにしたがっているんだ。リーダーはピサロさ。最初の標的となった俺たちの住む第三世界は必死に抵抗したが負け、大事なものが奪われてしまった」
「そんな……ピサロが言っていたこととぜんぜん違う。大事なものって?」
「エクスチェンジャーという他の世界にワープする際に姿を自由に変えられる装置さ。その装置を奪われたせいで俺たちは五世界共通で最も醜いとされる悪魔の姿でしかワープができなくなってしまった」
「そんな理由があったのね……。ああもう! ピサロめ! わたしをだました!」
「ようやく君も理解してくれたか。まりんちゃん、五世界統一計画を阻止すべく立ち上がってくれるか?」
「うん! ぜったいに許さないわ。でももうひとつ気になるのは、あなたたちはゴミを集めて何をしているの?」
「ここ第二世界のゴミは、非常に強力なエネルギーを持っているんだ。そして俺たちの第三世界ではリサイクルの技術が発達していて、このゴミを強力な武器に変えられる。俺たちの世界は別名『リサイクルワールド』とも言われているんだ」
「へぇすごいね!」
「だがエクスチェンジャーと同時にリサイクル技術も奪われた今では、向こうもゴミを集めることによって強大な兵器を造ることができる。もし完成してしまったら五世界統一計画が現実味を帯びる。なんとしても止めなくては」
「くぅ、ピサロがそんな悪いやつだったとは。こらしめてやる!」
「よし! 会わせたい人がいる。ゴミを集めながら向かおう」

 わたしは第三世界の味方につくことにしたわ。人は見た目で判断しちゃだめね。



 ペッグスと向かった古い民家の前には、掃き掃除をしている猫背の可愛らしいおばあちゃんがいたの。わたしはペッグスに聞いた。

「この人が会わせたい人?」
「そう、ヒサエおばあちゃんも魔法掃除少女なんだ」
「……少女?」
「なんだねその顔は。わたしゃが少女じゃおかしいってのかい」

 ヒサエおばあちゃんの顔が曇る。

「いえいえ! そんなことないです! めちゃくちゃ少女です!」
「それもおかしいわい」
「ヒサエおばあちゃんは六〇年前から魔法掃除少女として第三世界にゴミを送ってくれているんだ。俺たちの魔法掃除少女で一番の古株さ」
「古株ってなんだい」
「ああすみません新株です」
「それもおかしいわい」
「ま、まあとにかく、第五世界の五世界統一計画を阻止するには二人が力を合わせることが必要不可欠となる。勝負の時は明日の朝八時だ。第三世界からとびきりの武器を持ってくる。まりんちゃん、ピサロを山田公園におびき寄せてくれ」
「ようやくこのときが来たかね。小娘、チャンスは一瞬だよ」
「は、はい!」
 六〇年も魔法掃除少女をしているヒサエおばあちゃんはとても頼もしかったわ。



 八時、ピサロを公園へ誘い出す。

「どうしたのまりんちゃん、この公園になにがあるっていうんだい」

 おかしい、おかしいわ。ペッグスとヒサエおばあちゃんがいない。早くしないと計画が勘付かれてしまうわ。

「ペッグスとばばあのことかい?」

 ギクッ。なんでピサロが知っているの。

「ははは、僕がお前とペッグス達が裏で繋がっていることを知らないとでも? そのポーチにはね、盗聴器も付いているのだよ。俺を倒そうなんて聞いたときはビビったよ。そんなのできるわけないのにね」
「そんな……、二人はどこなの!?」

 わたしは逃げるよりも先に二人の心配をしたわ。わたしが盗聴器に気付かなかったせいで命に危険が及んでいたらどうしよう。

「そこの茂みの裏を見てみなよ」
「ペッグス! ヒサエおばあちゃん!」
「まりんちゃん……申し訳ない……ぐふっ」
「若ければあんな奴一発なのにね……がはっ」
「大丈夫!? 病院へ行こう! ああでもペッグスはその見た目だから……ええと……どうすればいいの!」

 わたしの頭はパンク寸前だったわ。

「まりん……ちゃん、このボタンを……緊急事態用の……ぐふっ」バタン。
「ペッグス!!」

 ペッグスは静かに目を閉じた。

「うわぁぁぁぁぁぁん」
「小娘……泣いてる暇があったらそのボタンを押しなさい……。ペッグスがあなたに託したのよ」

 そうだ。ペッグスと約束したんだ。悪い計画をたくらむピサロを倒すって。わたしが泣いてちゃもう誰も立ち向かう人がいないわ。

「えい!」ポチッ。

 キラキラリン。その瞬間、わたしの持っているほうきが大きな大きな掃除機に変わったの。おそらく第三世界のもつリサイクル技術を使ったものだわ。

「くっ、やっかいな魔法掃除道具だな。一旦引くか」

 逃げるピサロ、二人のかたきを討たなくちゃ!

「そうはさせないわ! 五世界統一計画とか戦争とか、悪いことばかりしてるのにピサロ、あなたは隠してたのね! しかもペッグスとヒサエおばあちゃんを傷つけた! わたしは絶対あなたを許さない! くらえ! くるりんバキューム!」

 ウィィィィィィン!

「がはっ、くそ! 吸い寄せられていく! ああ、あと少しでゴミが溜まり計画が実行できたのに! ぐわああああ」

 ピサロは掃除機に吸い込まれ消え去った。
 でも刺客がこれかも来るかもしれない。わたしがペッグスの意思を受け継いで五つの世界の秩序を守らなくちゃ。



 その後わたしはペッグスが持っていたワープ装置を使って第三世界のアミーゴ大王に会いに行った。盗んだリサイクル技術を第五世界は悪用していて、ピサロ亡き後も新たに『ネオ五世界統一計画』というものの実行を目指しているらしいわ。わたしは第二世界を代表して、第三世界と平和条約、そして共闘宣言を結び連合軍として第五世界と戦っている。

 魔法掃除少女になって、最初はピサロが正しいと思っていた。だってピサロは平和の象徴の鳩。ペッグスは悪魔の姿をしていたんだもの。でも、見た目で判断するのは危険なことだとわかった。ペッグスは勇敢で、とても優しかったわ。いつか第五世界の心が荒んでしまった人達を改心させて、全ての世界が平和になればいいな。

 そのためにわたしはこれからもゴミを集めていくわ。
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