二人きりの文芸部にて
二人きりの文芸部にて
更新日: 2023/06/02 21:46恋愛
本編
「センシティブだわぁ……」
そんなことを呟くのは桜さん。春生まれの桜さんは黒髪ロングがよく似合う美人さん。桜の花びらが待っている道なんかを歩くと桜の妖精みたいだとか学校中で言われるほどだ。
そんな桜さんは今日も少女小説を読む。
「今日のはどんな小説なんですか?」
私が尋ねると色白の頬を桜色にしてにっこり微笑んでくれる。
「意識高い女子高生が、友達の同級生男子の上半身裸を見て興奮しちゃうの」
「……え?」
「美しい身体だってドキドキしちゃう。それから二人は微妙に気まずくなって、女子の方からお手紙を書いて、私の身体は綺麗だとかそう思うのは間違っていない、とかぐだぐだ書いて送るの」
「……ほ、本当にそんな内容なんですか?」
「うん」
澄んだ美しい声に惚れ惚れしそうなのに、桜さんの読解力には些か不安が残る。
前々から少女小説を読んでは性的な要素を含む描写を見つけて喜ぶ変態さんだから、その小説の本筋を見誤っている可能性も大いにあるのだ。
以前読んでいた小説は、「近所のイケメンお兄さんに幼女が悪戯されちゃうの」とか言っていたが、その作品の本質はそんなところではなかった。名作だと思うのに桜さんを通すと安っぽい官能小説にしか聞こえなくなるのだ。
「芳乃ちゃん、私の言うこと信じてないでしょ」
「いえ、別にそんなことは……」
口を尖らせて「ぷんぷん!」と自分で言う桜さんは私の一つ先輩のくせに子供っぽい。なのに美しい。同じ人間とは思えなくて側にいていいものか不安になる。
しかし桜さんは私の側にいる。私以外で読書の話を聞いてあげる人がいないからだろう。
「今は、スマホで簡単に綺麗な女の人の裸だって見られるし、自分の身体にそんな自信を持つ子なんていないかもね」
「……桜さんの身体は、綺麗だと思います」
「え?」
「な、何でもありません……」
すらっとした体躯に長い手足。制服に隠れてはいるがなかなか大きいだろう胸に、くびれたウエスト。形のいいお尻。それに桜の花のような可憐な顔立ちなのだ。
同じ女子として嫉妬もするし、私の理想の女子像すぎて中身が変態だろうと崇拝すらしたくなるのだ。
「ふふふっ」
桜さんは可憐に笑う。
「わ、笑わないでください」
「だって芳乃ちゃんが可愛くって」
桜さんは私の短い髪をそっと撫でる。
「桜さんの方が可愛いです」
「そんな風に言うのはあなただけよ。この作者の別の小説でね、主人公が好きな意識高い系の男性とセンシティブな雰囲気になってね、私お乳小さいんです、って言うの。ねえ、胸とかおっぱいって言うより、お乳の方がセンシティブに聞こえない?」
「……本当に少女小説なんですか?」
「うん。同じ作者で、男性の先生が特定の女子生徒の観察日記付けてそれをその女子に読まれちゃう小説もあるよ」
「うわっ……」
年齢制限が必要な官能小説を少女小説だと勘違いしているのだろうか。桜さんならありえる。そう思うのに、桜さんが持っている本は児童書で、少女小説な表紙なのだ。
「私は男子の裸とか興味ないけど、気高い主人公の裸には興味あるなぁ」
「そ、そうですか……」
「だけどね、芳乃ちゃんの裸も見てみたいな」
「…………からかうのはやめてください」
桜さんは私の髪に触れ、頬を撫でて、首を撫でて肩を撫でてくる。
「芳乃ちゃんのお乳、見てみたいなぁ」
そんなことを言いながら私の小さい胸を撫でてくる。
桜さんは香水を着けているのだろうか、ふわっと香ってくる甘い香りに胸が締め付けられる。
「わ、私たち、文芸部の先輩後輩ってだけで……そんな関係じゃないです……」
「部員私たちしかいないし、ずっと二人で楽しく過ごしてきたのに。寂しいなぁ」
かけらも寂しくなさそうにニコニコしながら胸を撫でてくる。
「私の胸なんて見てどうするんですか。思い付きで変なこと言わないでください」
「そんなの、少女小説に書いてないようなことするに決まってるじゃないの。でも少女小説ってさ、直接的な描写はなくても次のページでは子供できたりするよね。性欲の描写とか一切ないのに子作りしちゃうんだよ。性欲なんて人間の三大欲求の一つなんだし、変に隠すから少女たちは気になっちゃうんだよ」
桜さんは桜色の薄い唇で世界の摂理を説明するかの如く力強く語っているが、私は別に気になっちゃったこともないし主語を大きくしないでほしい。
「……さ、桜さん」
私の両胸が、傷跡一つない白い両手で包み込まれてゆっくり撫でられる。
「芳乃ちゃんって、少女小説の主人公の都合のいいモブな友達キャラで出てきそうなのに、存在がとてもセンシティブだよね」
桜さんはそう言いながら、私の制服のブラウスのボタンに手を掛けようとした。
私は…………。
桜さんの綺麗な頬を思い切りビンタしてから帰宅した。
0そんなことを呟くのは桜さん。春生まれの桜さんは黒髪ロングがよく似合う美人さん。桜の花びらが待っている道なんかを歩くと桜の妖精みたいだとか学校中で言われるほどだ。
そんな桜さんは今日も少女小説を読む。
「今日のはどんな小説なんですか?」
私が尋ねると色白の頬を桜色にしてにっこり微笑んでくれる。
「意識高い女子高生が、友達の同級生男子の上半身裸を見て興奮しちゃうの」
「……え?」
「美しい身体だってドキドキしちゃう。それから二人は微妙に気まずくなって、女子の方からお手紙を書いて、私の身体は綺麗だとかそう思うのは間違っていない、とかぐだぐだ書いて送るの」
「……ほ、本当にそんな内容なんですか?」
「うん」
澄んだ美しい声に惚れ惚れしそうなのに、桜さんの読解力には些か不安が残る。
前々から少女小説を読んでは性的な要素を含む描写を見つけて喜ぶ変態さんだから、その小説の本筋を見誤っている可能性も大いにあるのだ。
以前読んでいた小説は、「近所のイケメンお兄さんに幼女が悪戯されちゃうの」とか言っていたが、その作品の本質はそんなところではなかった。名作だと思うのに桜さんを通すと安っぽい官能小説にしか聞こえなくなるのだ。
「芳乃ちゃん、私の言うこと信じてないでしょ」
「いえ、別にそんなことは……」
口を尖らせて「ぷんぷん!」と自分で言う桜さんは私の一つ先輩のくせに子供っぽい。なのに美しい。同じ人間とは思えなくて側にいていいものか不安になる。
しかし桜さんは私の側にいる。私以外で読書の話を聞いてあげる人がいないからだろう。
「今は、スマホで簡単に綺麗な女の人の裸だって見られるし、自分の身体にそんな自信を持つ子なんていないかもね」
「……桜さんの身体は、綺麗だと思います」
「え?」
「な、何でもありません……」
すらっとした体躯に長い手足。制服に隠れてはいるがなかなか大きいだろう胸に、くびれたウエスト。形のいいお尻。それに桜の花のような可憐な顔立ちなのだ。
同じ女子として嫉妬もするし、私の理想の女子像すぎて中身が変態だろうと崇拝すらしたくなるのだ。
「ふふふっ」
桜さんは可憐に笑う。
「わ、笑わないでください」
「だって芳乃ちゃんが可愛くって」
桜さんは私の短い髪をそっと撫でる。
「桜さんの方が可愛いです」
「そんな風に言うのはあなただけよ。この作者の別の小説でね、主人公が好きな意識高い系の男性とセンシティブな雰囲気になってね、私お乳小さいんです、って言うの。ねえ、胸とかおっぱいって言うより、お乳の方がセンシティブに聞こえない?」
「……本当に少女小説なんですか?」
「うん。同じ作者で、男性の先生が特定の女子生徒の観察日記付けてそれをその女子に読まれちゃう小説もあるよ」
「うわっ……」
年齢制限が必要な官能小説を少女小説だと勘違いしているのだろうか。桜さんならありえる。そう思うのに、桜さんが持っている本は児童書で、少女小説な表紙なのだ。
「私は男子の裸とか興味ないけど、気高い主人公の裸には興味あるなぁ」
「そ、そうですか……」
「だけどね、芳乃ちゃんの裸も見てみたいな」
「…………からかうのはやめてください」
桜さんは私の髪に触れ、頬を撫でて、首を撫でて肩を撫でてくる。
「芳乃ちゃんのお乳、見てみたいなぁ」
そんなことを言いながら私の小さい胸を撫でてくる。
桜さんは香水を着けているのだろうか、ふわっと香ってくる甘い香りに胸が締め付けられる。
「わ、私たち、文芸部の先輩後輩ってだけで……そんな関係じゃないです……」
「部員私たちしかいないし、ずっと二人で楽しく過ごしてきたのに。寂しいなぁ」
かけらも寂しくなさそうにニコニコしながら胸を撫でてくる。
「私の胸なんて見てどうするんですか。思い付きで変なこと言わないでください」
「そんなの、少女小説に書いてないようなことするに決まってるじゃないの。でも少女小説ってさ、直接的な描写はなくても次のページでは子供できたりするよね。性欲の描写とか一切ないのに子作りしちゃうんだよ。性欲なんて人間の三大欲求の一つなんだし、変に隠すから少女たちは気になっちゃうんだよ」
桜さんは桜色の薄い唇で世界の摂理を説明するかの如く力強く語っているが、私は別に気になっちゃったこともないし主語を大きくしないでほしい。
「……さ、桜さん」
私の両胸が、傷跡一つない白い両手で包み込まれてゆっくり撫でられる。
「芳乃ちゃんって、少女小説の主人公の都合のいいモブな友達キャラで出てきそうなのに、存在がとてもセンシティブだよね」
桜さんはそう言いながら、私の制服のブラウスのボタンに手を掛けようとした。
私は…………。
桜さんの綺麗な頬を思い切りビンタしてから帰宅した。