教室のゴミ箱に厨二病ポエムが捨てられていた

作家: しょこら
作家(かな):

教室のゴミ箱に厨二病ポエムが捨てられていた

更新日: 2023/06/02 21:46
現代ドラマ

本編


私の中には天使と悪魔がいる。

親や先生の言うことをよく聞くいい子の私と、反抗したくて仕方ない私。

私の右の翼は天使の白い翼。
私の左の翼は悪魔の黒い翼。

私の右の瞳は鮮血の如く紅い色。
私の左の瞳は晴れた空の蒼い色。

この世を神様が支配しても私はひとりぼっち。
この世を魔王が支配しても私はひとりぼっち。

私はどうすればいいの?
なぜこんな二面性を持ってしまったの?
ああ、私は孤独だ。


 そんな厨二を拗らせているポエムを発見した。
 決して私が書いた物ではないと最初に言っておく。
 私もこんな痛い時期があったことが頭によぎり悶えてしまう。
 高校二年生にもなって、こんな気持ちを持ったまま生きているとは……なんて思わない。誰でも自分は孤独で特別な存在だと思ったりするものだ。
 うんうん。私にはあった。自分が特別だとか思ってた時期がありましたよ……。
 放課後の教室のゴミ箱の一番上にペラっと捨てられていたルーズリーフ。それに書いてあったのでなければ気にも留めなかった。
 ここにあるってことはクラスメイトの誰かなのだろうか。
 綺麗な字をしている。書道的な字ではないが丁寧で読みやすい。内容は独りよがりの中学生なんだけどね!
 誰かなぁ。
 このクラスには問題児はいない。みんな真面目で先生に反抗するところなんて見たことがない。
 うーむ。内容で絞られない。クラスは男子15人女子15人の30人クラス。私以外の29人が容疑者だ。
 他のクラスの人が捨てた可能性ももちろんある。自分の教室のゴミ箱には捨てにくいよなぁ……。
 黒板に貼っておけば作者が回収するだろうか。いや、目撃者がいる中で回収できる強い心があればこんなポエムを書かない気がする。これを他人に見られたら恥ずかしいはずだ。でもしかし折り畳みもせずに捨てるなんて、本当は誰かに見てもらいのではないか疑惑も出てくる。

 私は、中学時代に自作の痛々しい小説を書いてニマニマしていたことがある。これで作家デビューとかしちゃうんじゃない?とかまで考えてサインまで考えていた。既存の人気小説のつぎはぎの文章力皆無で独りよがりの小説なんて、小説投稿サイト3カ所に投稿したけど合計閲覧数が100にもならなかった。お気に入りも0。あはははは。今は全ての小説とアカウントを削除済みだ。
 ああ、嫌なことを思い出してしまった。あの頃は暇があると投稿サイトのマイページを見て一喜一憂してた。
 パクリを詰め込んでいるのにクソつまらない怪文書を名作だと思って誇らしかった。後書きとか超気取って長々書いた。
 誰にも求められてないのに本編に入らなかったネタとかSNSで投稿し続けたし、オリキャラのイラストとかも頑張って描いた。その内ファンアートとかいっぱいもらえるかなとか思いながら。
 高校受験が終わって、改めて自分の書いた小説を一話から読み返しあまりのつまらなさに全身が震えた。そして全てを削除した。
 うああああ……。こんな過去を思い出させてくれるなんてなんて罪深いポエムなのだろう。
 翼とかオッドアイとか私も大好きだった。天使と悪魔が戦う世界で、両方の血を受け継ぐ主人公とか……ふへへへ。ありきたりだけど大好きだ。美形の主人公が孤独や苦悩や葛藤を乗り越えていくんだよね。
 あ、やばい。ポエムのせいで私も厨二の心が蘇ってきてしまう。テンプレキャラなんて駄目だよ、オリジナリティがなければ。昔から戦争相手とのハーフが主人公の作品は多々ある。その孤独を解消する仲間も大事だよね。ヒロインとかペット枠とか。
 あのさ、最近のラノベはどんな特殊な立場の男主人公でも全て受け入れてくれるヒロイン多すぎじゃない? 全肯定なんて愛じゃない。都合がいいってだけだよ!
 ペット枠もさぁ、美少女に変身とかしなくていいんだよ。
 ……ふう。落ち着こう。
 このポエムの作者は、全肯定してくれる都合のいいヒロイン枠がいない孤独な存在なのだろう。
 このポエムの作者の正体を知りたい。普通の学生生活をつつがなく送っているだろうに、こんな厨二な心を忘れない作者を遠くから見守りたい。
 私は捨てようと思って持ってきたプリントをゴミ箱に投げ入れ、ポエムが書かれたルーズリーフを拾って自分のクリアファイルに入れ、スクールバッグにしまった。
 このクラスは学年の中でも成績がいいらしい。テストの平均点はどの教科もずば抜けて高く、スポーツテストの成績もいいらしい。
 そんなクラスメイトの誰かさんが、ねぇ……。
 そうだ、明日決める文化祭実行委員に立候補して、何をしたいかを記名ありのアンケートで答えてもらおう。
 筆跡で誰が書いたかわかるだろう。
 なんか、久しぶりに小説書きたくなってきた。天使と悪魔のハーフが出てくる厨二心全開で読者のことなんて気にしない作品を。
 もしかして、このポエムの作者なら読んで気に入ってくれるかもしれないな、なんて思いながらまずはキャラの名前から考え始めた。
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