待ち合わせは、世界の上で
待ち合わせは、世界の上で
更新日: 2023/06/02 21:46恋愛
本編
「あ、あの… すみません、
コレ落としましたよ?」
「え、僕?あ、ありがとうございます…」
恥ずかしい…穴があったら入りたいとはこのことだ。
僕にとってありがたく、この時代に違和感ないマスクに、ラフなフード付の薄手のパーカー。
オーラを消す?とか良くわからないけど、僕なりに「普通」の格好をしてきたというのに、わざわざ落とし物を拾ってもらうなんて…。
夏の夜に溶け込んだつもりだったのに。 僕たちのあいだに、ぬるい風が通る。
いや、普通ってなんだろう…?
今までだって僕は「普通」に生きてきた。チャンスに恵まれたので「努力」をしただけだ。努力の先で「出逢う」人たちにも恵まれた。
普通の僕は嬉しくて、また努力したら、また新たに素敵な人たちと出逢う…なんて幸せな繰り返しなんだ。
その繰り返しを生きてきたうえに、
今の僕がいる。それは、充分わかっている。
そう、世界を上から見下ろせるタワーの上でボーっと世界の終わりを考えてしまうくらいには僕は少し、疲れていた。
ここからの景色を眺めるのが好きだ。
だけど数え切れない世界の明かりは、自分が元気だとあたたかいファンのみんなのように見えるし、今日のように気持ちが落ちていると、まるで幾多の誹謗中傷の視線にも感じる。
前者の場合は早く地上に帰りたくなるし、後者の今日は…夜空へと還りたくなる。
声をかけてくれた君は、なんでもお見通しですべて受け入れてくれそうな瞳をしていた。
いや、疲れていた僕が都合のいい見方をしただけかもしれないが。
今はこれ以上、このまま1人で世界を見下ろしているとネガティブ大魔王に襲われる気がして助けてほしかった。
「せっかくなので、一緒に見ませんか?」
さっきの落とし物の動揺も隠すように、君を呼び止めた。君も仕事終わりに来たそうで、僕に付き合ってくれた。僕たちは当たり障りのない
誰でもできる話をたくさんした。
君がここへ来たのは初めてだとか、
星も見るのが好きだとか、でも数字も嫌いじゃないとか、水族館ではイルカよりペンギン派だとか、パンが好きだけど、朝はパンだとすぐおなかすいちゃうとか。
本当に当たり障りのない話だ。
しばらくそんなくだらない話に付き合ってもらってるうちに、今夜のネガティブモードから抜けられた。今は、そんなくだらないくらいの話が
ちょうど良かった。
それをわかっているかのようにそのレベルの話に、クスクス笑う程度の君。なんだかとても癒されて、また頑張れそう。
「なんか元気出ました、ありがとう」
空がまだ明るくなる前に、
僕たちはそれぞれの帰り道へ。
ふと君の方を振り向くと、君も1度だけ振り返って気づき小さく手を振って笑うと、僕に向かって
「頑張ってね」
というジェスチャーを遠くから付け加えた。
そんな君のバッグには、僕の属するグループのグッズが揺れていた。
僕ははじめから気付いてた。
気付いてて、触れなかった。
君も触れずにいてくれたから。
君だって、最初から知ってたはず。
君が拾ってくれた僕のキーケースにも、同じものが付いていたから。
だから拾ってもらった時に、僕はあんなに恥ずかしくて動揺したんだ。
知ってて、お互い触れずに僕たちはくだらない話ばかりしたんだ。
そしてそのまま、それぞれの生活へ。
そんな僕たちが、もしもいつかまた会えるとしたら…
それはステージの前か、きのうと同じように世界を見下ろすあの場所で
また偶然出逢うしかない。
もしもまたいつか、逢いたくなったら…
待ち合わせは、世界の上で。
0コレ落としましたよ?」
「え、僕?あ、ありがとうございます…」
恥ずかしい…穴があったら入りたいとはこのことだ。
僕にとってありがたく、この時代に違和感ないマスクに、ラフなフード付の薄手のパーカー。
オーラを消す?とか良くわからないけど、僕なりに「普通」の格好をしてきたというのに、わざわざ落とし物を拾ってもらうなんて…。
夏の夜に溶け込んだつもりだったのに。 僕たちのあいだに、ぬるい風が通る。
いや、普通ってなんだろう…?
今までだって僕は「普通」に生きてきた。チャンスに恵まれたので「努力」をしただけだ。努力の先で「出逢う」人たちにも恵まれた。
普通の僕は嬉しくて、また努力したら、また新たに素敵な人たちと出逢う…なんて幸せな繰り返しなんだ。
その繰り返しを生きてきたうえに、
今の僕がいる。それは、充分わかっている。
そう、世界を上から見下ろせるタワーの上でボーっと世界の終わりを考えてしまうくらいには僕は少し、疲れていた。
ここからの景色を眺めるのが好きだ。
だけど数え切れない世界の明かりは、自分が元気だとあたたかいファンのみんなのように見えるし、今日のように気持ちが落ちていると、まるで幾多の誹謗中傷の視線にも感じる。
前者の場合は早く地上に帰りたくなるし、後者の今日は…夜空へと還りたくなる。
声をかけてくれた君は、なんでもお見通しですべて受け入れてくれそうな瞳をしていた。
いや、疲れていた僕が都合のいい見方をしただけかもしれないが。
今はこれ以上、このまま1人で世界を見下ろしているとネガティブ大魔王に襲われる気がして助けてほしかった。
「せっかくなので、一緒に見ませんか?」
さっきの落とし物の動揺も隠すように、君を呼び止めた。君も仕事終わりに来たそうで、僕に付き合ってくれた。僕たちは当たり障りのない
誰でもできる話をたくさんした。
君がここへ来たのは初めてだとか、
星も見るのが好きだとか、でも数字も嫌いじゃないとか、水族館ではイルカよりペンギン派だとか、パンが好きだけど、朝はパンだとすぐおなかすいちゃうとか。
本当に当たり障りのない話だ。
しばらくそんなくだらない話に付き合ってもらってるうちに、今夜のネガティブモードから抜けられた。今は、そんなくだらないくらいの話が
ちょうど良かった。
それをわかっているかのようにそのレベルの話に、クスクス笑う程度の君。なんだかとても癒されて、また頑張れそう。
「なんか元気出ました、ありがとう」
空がまだ明るくなる前に、
僕たちはそれぞれの帰り道へ。
ふと君の方を振り向くと、君も1度だけ振り返って気づき小さく手を振って笑うと、僕に向かって
「頑張ってね」
というジェスチャーを遠くから付け加えた。
そんな君のバッグには、僕の属するグループのグッズが揺れていた。
僕ははじめから気付いてた。
気付いてて、触れなかった。
君も触れずにいてくれたから。
君だって、最初から知ってたはず。
君が拾ってくれた僕のキーケースにも、同じものが付いていたから。
だから拾ってもらった時に、僕はあんなに恥ずかしくて動揺したんだ。
知ってて、お互い触れずに僕たちはくだらない話ばかりしたんだ。
そしてそのまま、それぞれの生活へ。
そんな僕たちが、もしもいつかまた会えるとしたら…
それはステージの前か、きのうと同じように世界を見下ろすあの場所で
また偶然出逢うしかない。
もしもまたいつか、逢いたくなったら…
待ち合わせは、世界の上で。
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