鳥居の先になにが見える? ~六十三・メロンの『ロ』が四角に見えたらもうメロンは伏字にしか見えないって本当?~

作家: 稲荷玄八
作家(かな): いなりげんぱち

鳥居の先になにが見える? ~六十三・メロンの『ロ』が四角に見えたらもうメロンは伏字にしか見えないって本当?~

更新日: 2023/06/02 21:46
ライトノベル

本編


 私がいじめにあっていたとき、助けてくれたのはキレイなお姉さんだった。
 お姉さんはいじめっ子たちに向かって、

「お前らのかーちゃんでーべそ!」

 と思いっきり叫んだ。小学校も低学年。母ちゃん大好き年齢にはよく効いたらしく、蜘蛛の子を散らすようにどこかへ走っていってしまった。

「ふーほんとにこれで逃げるとは」

 自分の成果だというのにどこか他人事のように語るお姉さん。
 私は変な人だなと思うのと同時に興味を持った。でもどうやら興味を持っていたのはお姉さんも同じなようで、

「これから喫茶店でかき氷でも食べない?」

 と私の答えも聞かずに腕をとって歩き始めた。よく考えなくても事案事項だが、不思議と嫌な感じがしなかった私は何も言わずについていった。
 お姉さんのあとを小走りについていくと、いつも母親と来る喫茶店についた。

「懐かしいわねえ、ここも。記憶のままだわ」

 お姉さんは昔ここら辺に住んでいたのだろうか、喫茶店につく途中でも似たようなことを言っては立ち止まっていた。でも私にとってはどうでもいい。今はかき氷の今年か頭にない。
 私はかき氷がちょっと苦手だ。冷たくて頭は痛くなるし、冷たすぎていっぱい食べれないし、所詮氷だし。でもここの喫茶店ではかき氷にアイスをつけてくれるから好きだ。冷たいことにはかわりないんだけど、アイスの甘さが氷ととてもマッチしていて食べやすい。おすすめはイチゴかメロン味。私の今日の気分は――。

「「かき氷、メロン味で。トッピングにアイスも」」

 お姉さんと注文が被った。お姉さんは分かっていたようにニコニコして私を見ている。その顔がどこかお母さんのように見えて、ああ、きっとこの人はお母さんの親戚かなにかなんだ、それで私を助けてくれたんだと思った。

「メロン味、好きなの?」
「うーん。どちらかというといちごの方が好き」
「じゃあなんでメロン味?」
「それはね、メロン味のほうが――」
「アイスと相性がいいから?」

 お姉さんの言葉に私は口をつぐむ。言おうとしていたことをそのまま言われて驚いたからだ。

「私もそう思う。溶けたアイスと氷、シロップが混ざったところなんて絶品だよね」

 それも私が言おうとしたやつだ。さっきまでは変な親戚のお姉さんだな、と思っていたけど、なんだか心を読まれているみたいで気持ち悪い。

「私、気持ち悪いよね?」

 瞬間、私は一目散に逃げ出した。もともと知らない人について言ってはダメだと教わっていたのに、なんであの姉さんには警戒しなかったのか意味がわからない。帰って母に泣きつき、その日は泣き疲れて寝てしまった。



「……うん、まあ気持ち悪いよね。考えてることそのまま言われたら。私もそう思ったもん」

 私の前には手つかずのかき氷が二つ。
 あのあとのことなんて考えたこともなかったけど、こんなことになってたなんて、考えもしなかったな。
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