鳥居の先になにが見える? ~六十二・ブルーハワイ漂流記~

作家: 稲荷玄八
作家(かな): いなりげんぱち

鳥居の先になにが見える? ~六十二・ブルーハワイ漂流記~

更新日: 2023/06/02 21:46
ライトノベル

本編


「なあ、ちょっといいか?」
「いくない」
「おれぁさ、ハワイに行くって聞いてきたんだが。ここどこよ」
「ハワイだが?」
「嘘はよくないよ~、ハワイはこんなに寒くねえから。身も心もブルブルだぞ?」
「そんな薄着だからだろ、ちょっとはものを考えろ」
「そりゃハワイに行くって聞いてたからね? アロハシャツできちゃうよね?」
「浮かれおって。現地に着く前に花の首飾りを巻くやつがあるか」
「気分上がっちゃったからね、仕方ないよね。それに現地にはついてないよね?」
「脳タリンのこんこんちきが、恥を知れ」
「そっくりそのままお返ししますよお嬢様。んで、そろそろ本題なんだけど」
「なんだ」
「ここ、どこよ」
「ここはハワイだ。……通称、ブルーハワイ島。北極に無数に存在する無人島の一つで、私の父が所有する島でもある」
「いや、どこにハワイ……ブルーハワイ要素があるんだよ、島といってもほとんど氷に閉ざされてるし、周りは見渡す限り海しかねえし。しかも青い海ってか黒い海だぞこれ。なにをもってブルーハワイって名づけたんだよお前の父親は」
「ここなら……無限に……かき氷が食べれるって」
「……こんな寒い中で?」
「父の考えることなんて知らん」
「それで、もう一つ大事なことを聞かねばならんのだが、いいか?」
「いくない」

 俺は後ろを振り返る。轟々と燃え上がるセスナ。手荷物もなにもかも炎に巻かれ、暗い曇天へと消えてゆく。

「帰る方法は、あるんだよな?」
「一ヶ月、無人島でお前と暮らして惚れさせると父と約束したから。何があっても助けは来ん」
「お前それ胸張っていうことじゃねえーから。え、じゃあなに? 俺らこれからここでサバイバル生活なの? こんな何もないような島で? 木一本すら生えてないのよここ?」
「慌てるな、こんなこともあろうかと衛星電話を持ってきてある。機長、出してくれ」
「その機長は今愛機とともに炎上しているよ。助けられなかっただろ」
「慌てるな、こんなこともあろうかとロッヂを用意しておいた。そこに一ヶ月分の備蓄はある。しかもすぐそばだ」
「ロッヂに飛行機突っ込んで絶賛炎上中だっての」
「……慌てるな、こんなこともあろうかと脱出用のボートが用意してある。ほら見ろ! あのトドの群れの真ん中にある立派なボートを!」
「ばっきばきのべっこべこにこわされてんじゃねーか」
「……もうそろ慌ててもいいか?」
「遅すぎるくらいだと思うぞ?」
「どどどど、どうしよー!?」

 草がかろうじて生えているのみの島。極寒で、風も強く、危険な猛獣はうようよいるこの無人島で。俺と非力なお嬢様は難度地獄級のサバイバルに挑まねばならないらしい。
 こういうのってさ、南の島でやるから生き延びられるんよ。こんな極寒の地で資材も雨風もしのげるところもない場所はサバイバルに向かないんよ。
 ……あ、積んだわこれ。

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