完結済

縁側で尺八をーおじいちゃんと孫ー

作家:notekotone
作家(かな):
Twitter ID: notekotone
更新日: 2023/06/02 21:46
エッセイ、ノンフィクション

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概要


「ただいま」
広い、芝生の庭を通り抜けて玄関を開けると、靴を脱ぐのがもどかしいまま、叫んだ。

小学六年生の祈里(いのり)は、ぐるり、と家の中をみて、仏間から祖父が甚平姿で尺八と一緒に縁側のほうへ渡り廊下を歩いていくのが見えた。

「おじいちゃん、尺八吹くの?」

孫の元気な声に気づいた祖父は、くしゃくしゃの笑顔。
180cmある、高身長の穏やかな性格の祖父は、男前で、地域でもかっこいいですね、と声がかかる自慢の祖父だ。

「ああ、祈里は宿題は?今日は塾には行くのか」

「学校で友達と終わらせて帰ってきたよ」

ランドセルを自分の部屋の机に置いてくると、祖父のいる縁側へと合流した。

「何吹くの?」

「民謡だ、祈里はわかんねぇべな」

東北の訛り。私も訛っているけど

「おやつ、もらってくる。おじいちゃんはあんぱんと牛乳だよね?」
「ああ、献血したときにも同じもの貰うんだ」

あんぱんと牛乳を持って、戻ってくると

夕焼けから夜になる
グラデーションの鮮やかな夕日と

群青色に染まりつつある空に
外の駐車場の街灯が
夕方5時になると点灯する。

尺八の音色を吹く祖父が、とても綺麗で。

いつまでも眺めていたかった。

優しい、祖父。
仕事に一生懸命で

自分のことより、他人のことばかり考えて動いている。

私くらいの年で母親を病気で亡くしてから、お姉さん2人と生活してきたという。

だから、孫が沢山いるのがとても嬉しいといっていた。

私は祖父の孫の数名の中のひとりだ。

独占もすることは、出来ない。

それでも、それでも
明日も祖父の笑顔と
尺八を聴きたい。

祖父に頭を撫でて貰いたい。
喜んで貰いたい。

明日も、祖父の笑顔に逢えたらいい。明日も私も生きていたい。


End