鳥居の先になにが見える? ~二十三・夢現~
鳥居の先になにが見える? ~二十三・夢現~
更新日: 2023/06/02 21:46ホラー
本編
今日、私は起きたはずなのに夢を見ていた。
家には誰もおらず、電化製品は全て壊れている。それどころか蛇口も動かないし、水も流れない。外からも音が一切しない。常識的に考えてもこれは異常事態だ。そこでハッとした私はベタではあるが頬を引っ張った。
「痛くない……ってことは夢なのこれ!?」
しかも自意識を持って見たのは初めてのことだ。面白みはないものの、これはこれで楽しめるかもしれない。
私はさっそく外に出た。相変わらずなんの音もしない。秋のこの時期なら鼻腔をくすぐる金木犀の香りもしない。生活感どころか生物の気配さえ感じないこの世界。夢でなくてなんだというのか。
「不気味……といえば不気味だけど気にするほどでもないかな!」
私は見慣れた道を意味もなく駆ける。五感が捉える景色が違うだけでこんなにも世界って様変わりするものなのかと感動を覚えながら。あの電柱の脇に花が咲いていることなんて知らなかった。道がこんなに広いなんて知らなかった。道に止まっているトラックがこんなに大きいなんて知らなかった!
どれほど走っただろう。息も切れない自身に驚きながらも、私はとある場所へついていた。
「ここは、病院?」
目的もなく走っていたのに、ふと気になって足が止まった場所は病院だった。何故か私はこの病院に強く惹かれている。
「どうせ目的もないし、夢ならなにかアクションがあるかも?」
空も飛べない夢だから少々飽きてきていたところではある。なら自分の感性に従って中に入ってみるのも一興だろうと、私は病院に入った。
ここに強く惹かれた意味はすぐに気づいた。音が鳴っているのだ。
耳を打つピーっと抑揚のない電子音。音のない世界に唯一響く存在の証。
私はその音めがけて無我夢中で走った。この音の正体がわかれば夢から覚めるかもしれない、そんな予感がしてならないのだ。
開け放たれた病室にたどり着く。
そこにいたのは“私”だった。
すぐ脇の検査機の画面には緑色の線が平坦に流れ、そこから音が流れている。
ああ、そうか。これは夢なんかじゃなくて。
そう気づいたとき。
世界は途端に色と音と、人を取り戻した。
“私”に駆け寄る人たちを、私はぼーっと眺めることしかできない。
その涙は、その声は、私にかけられるものであって、“私”にではない。
ま、こんなこといってもしょうがないんだけど。
自身の手を見るとぼんやりと薄くなっていくのがわかった。きっと気付いてしまったからだろう。気付かなければもう少しこのままでいれたかもしれないのに……
でも今となってはもう、遅い。
0家には誰もおらず、電化製品は全て壊れている。それどころか蛇口も動かないし、水も流れない。外からも音が一切しない。常識的に考えてもこれは異常事態だ。そこでハッとした私はベタではあるが頬を引っ張った。
「痛くない……ってことは夢なのこれ!?」
しかも自意識を持って見たのは初めてのことだ。面白みはないものの、これはこれで楽しめるかもしれない。
私はさっそく外に出た。相変わらずなんの音もしない。秋のこの時期なら鼻腔をくすぐる金木犀の香りもしない。生活感どころか生物の気配さえ感じないこの世界。夢でなくてなんだというのか。
「不気味……といえば不気味だけど気にするほどでもないかな!」
私は見慣れた道を意味もなく駆ける。五感が捉える景色が違うだけでこんなにも世界って様変わりするものなのかと感動を覚えながら。あの電柱の脇に花が咲いていることなんて知らなかった。道がこんなに広いなんて知らなかった。道に止まっているトラックがこんなに大きいなんて知らなかった!
どれほど走っただろう。息も切れない自身に驚きながらも、私はとある場所へついていた。
「ここは、病院?」
目的もなく走っていたのに、ふと気になって足が止まった場所は病院だった。何故か私はこの病院に強く惹かれている。
「どうせ目的もないし、夢ならなにかアクションがあるかも?」
空も飛べない夢だから少々飽きてきていたところではある。なら自分の感性に従って中に入ってみるのも一興だろうと、私は病院に入った。
ここに強く惹かれた意味はすぐに気づいた。音が鳴っているのだ。
耳を打つピーっと抑揚のない電子音。音のない世界に唯一響く存在の証。
私はその音めがけて無我夢中で走った。この音の正体がわかれば夢から覚めるかもしれない、そんな予感がしてならないのだ。
開け放たれた病室にたどり着く。
そこにいたのは“私”だった。
すぐ脇の検査機の画面には緑色の線が平坦に流れ、そこから音が流れている。
ああ、そうか。これは夢なんかじゃなくて。
そう気づいたとき。
世界は途端に色と音と、人を取り戻した。
“私”に駆け寄る人たちを、私はぼーっと眺めることしかできない。
その涙は、その声は、私にかけられるものであって、“私”にではない。
ま、こんなこといってもしょうがないんだけど。
自身の手を見るとぼんやりと薄くなっていくのがわかった。きっと気付いてしまったからだろう。気付かなければもう少しこのままでいれたかもしれないのに……
でも今となってはもう、遅い。