愛があるから

愛があるから

更新日: 2023/06/02 21:46
詩、童話

本編



感情が なくなればいいと灰色の空に願う。

誰かのくだらない言葉遊びに笑い転げることあれば
子供の頃 鉄棒を回れずに 落下した時のような
頭を打ち付けたような そんな恥と悲しみ、痛みが襲う。
ガラスの壁に 
そう、あまりに透明な ガラスの壁に囲まれて気づかずに
走り出せると地面を蹴ったそばから 
自身で予期せぬような強力さで額や鼻頭を打ち付けた。
なんてみじめで滑稽なんだ。

私は人から思われるような人間ではない。
人から暖かい温もりに近い何かを得たところで
私はそれをすべて、すべて、覚えていられないのだから。
口の中に 自身の身体の中にそれを取り込むと
言いようもない 快感に満たされて 幸福で。

ああ その時ばかりは 私は人から人間といわれ。
ガラスを隔てたこちらとむこうで、掌を合わせるようなそれを得られる。
だが、そうだ。一時の安らぎを得たところで意味はない。
すぐに私は空腹に喘ぐ。すぐに次が欲しくなる。
私に振舞ってくれた料理も、
私の好みでなければ意味がないんだ。

死んだほうが いいんじゃないんだろうか。
そんなに食い荒らしてどうするんだ。
目が見えないほうがよかっただろう。
耳が聞こえぬほうがましだった。

優しい言葉を たくさんくれよ
いくら払えばいいんだ
全然足りないんだ。
生きていくためには、目の前がちかちかして
喉が干からびて 手が震える この
これを止められるのは
受け入れられるしかないんだ。
犯罪じゃないのは、これがなければ
人間なんて全滅だ。

死ぬのはひどくめんどくさい。
生きるのだって、惰性だ。

憂鬱だ。
ほら、憂鬱は空腹の合図だ。
産み落とされて、そしていずれ完成することなく死ぬ私は、
意味もなく、喜び、悲しみ、苦しみ、怒り。
勝った負けたで優越し、後悔し。
嫉妬や妬みでもがき狂う。

潮の満ち引きで襲う躁鬱に
息ができずに白目を剥く。
なかなか、うまいものだろう?
苦しんだふりは こんな生き方で
だいぶ様になってきたんだ

この笑顔も、
好きになってくれるだろう?
何もかも歪んでいくのは、
ひとのせいにはできないだろう?
なんでもかんでも愛といい
なんでもかんでも好きといい
私はそれで救われるほどに
もっと欲しい もっとくれと
合法な…。
安心していい。 合法だ。
 
ああ、これを読んでいる君よ。
私のようになってはいけない。
生きることが楽しい時もあった。
でもそれは、LSDだ。
努力して報われる時もあったが、
それもたぶん、フェンタニルだ。
達成感で満たされて、
心が通じ合い 笑い合い
愛し合い 励まし合い 泣き合い
なんて私は こんなに 幸せなんだ。
私だって 君に与えられる。
君が愛しくてたまらずに
君の計算高さも、自虐に酔いつぶれるのも、
時折のぞかせる金色の瞳も、
君の吸ったケムリが煌々(こうこう)と登ってゆく空の青さも
この世が君を受け入れなくても、
寂しいと煩わしくすり寄ってくるのも、
君が口を大きくあけてくれさえすれば、
君が鼻を近づけてくれれば、
君が腕を差し出せば、
君が足の指の間を広げて捧げるだけで、いい。

だからどうか私の代わりに穏やかであってくれ。
私のようにならないでくれ。

これは合法だ。

笑おうと思えば無限に笑える。
泣こうと思えば永遠に泣ける。

君が私を逃がしてくれないなら、
今夜も眠れますようにと目を閉じて、
明るい夢を見られないならば、

この心臓が動くのは、私の罰か。
その時が訪れたんだ。
目覚まし時計は、
耳障りなこの鼓動は、
止めなければ
迷惑だろうと。
私が死んでいるならそれは愛だ。
私が君を嫌いなのは愛だ。
私が自身を傷つけるのはこれはもう、愛としかいえない。
良い人生だった。

君はいつだって頑張っているじゃないか。
今はとても、死にたいほどに辛いかもしれないが、
これを飲めば大丈夫だ。
まだ君は、生きていける。
生きていけば、
君がまだ目にしていない
耳にしていない
素晴らしい世界が待っているよ。
スリリングで。刺激的な。
思い出に助けられて、
思い出に縛られて、
死ぬまでどんどん、どんどん、
枷が、鎖が、重りが増えていくのか。

その旅に、 その度に、
言葉の麻薬は量を増し、

そうして。
ああ、幸せを感じるのが苦しい。
喜びを感じるのが怖い。
ずっと飲み続けて、ずっと食べ続けて
ずっと打ち続けて、ずっと舐め続けて

カフェインのんで化け物になろうか。
翼が生えたら、撃ち落としてほしいな。
死ぬ間際くらい、この人間の生きる呪縛から。
心臓が、動く血が、脳みそが。
人は簡単に死ぬものだから、いいじゃないか。

疲れているんだ。
疲れているのに。
君がいないと生きていけないのに。
君はもういないから、生きていけないんだ。

ああ、この絶望が、
生きるか死ぬかを考えるこの時間が
私はやめることができないのさ。ずっと。
どんな感情も私はきっと、快感に変えるのさ。

私は、もっと、生きていたかったんだ。
生きていたかった。
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