「髪は床に落ちても、生きているのよ。だから、拾ってあげて。」

作家: 夕月 檸檬
作家(かな): ゆづきれもん

「髪は床に落ちても、生きているのよ。だから、拾ってあげて。」

更新日: 2023/06/02 21:46
エッセイ、ノンフィクション

本編


20代の頃に憧れていた、職場の先輩のひと言──
「髪は床に落ちても、生きているのよ。だから、拾ってあげて。」

ロングヘアでアップスタイルにしていた当時、お昼休みの最後に、髪を整え直していた。
カーラーをはね飛ばしてしまう“言うことを聞かない髪”で、スタイリングには気合が必要だった。

抜け落ちた髪を拾いつくしたつもりでいたけど、床に拾い残しがあったらしい。
髪を落したままというのは、振る舞いとして美しくない。

そのことを先輩は、最初のひと言で伝えてくれた。
そして、「誰かに踏まれる前に拾ってきて。」と、持ち場に入るのが少し遅れることを、許してくれた。


理知的で凜(りん)とした美女の先輩は、心配(こころくば)りも、言葉遣(づか)いも美しい人だった。
キリリと結びあげた黒髪のうねりも。

先輩の“黒髪の秘密”は、当時の先輩の年齢に近づいた時、役に立ってくれた。

色々なことを学ばせてくださった先輩、今でも感謝しています。
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